暁 〜小説投稿サイト〜
スペードの女王
第一幕その七
[2/2]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
は言わない。
「社会常識をわきまえて、そしておしとやかに」
「わかりました」
 フランス貴族の浮気、不倫三昧も言わない。これは国王が率先してやっていても。
「淑女には馬鹿騒ぎは不釣合いです。宜しいですね」
「じゃあ何がよいのですか?」
「決まっているではありませんか」
 思いきりふんぞりかえって言い出した。
「フランスの歌と踊りこそが最高なのです」
「フランスが」
「そう、フランスです」
 オーストリアなどとは口が裂けても言わない。
「何もかも。宜しいですね」
「じゃあ民謡は」
「もっての他です」
 きっぱりと言い切る。
「民謡なぞは貴族のものではありません。宜しいですね」
「はあ」
「では今日はこれまで」
 先生は言った。
「皆さん、お家へ帰りましょうね」
「わかりました。じゃあリーザ」
「また明日ね」
「ええ。また」
「私もね」
「ええ」
 こうして皆帰って行く。先生は彼女達を見送りに行き残ったのはリーザとポリーナだけになったのであった。広い部屋に二人だけとなった。
「ねえリーザ」
 ポリーナは二人になると彼女に声をかけてきた。
「何?」
「今日はどうしたの?」
 怪訝な顔をして彼女に問う。
「何かおかしいけれど」
「別に」
 だがリーザはそれは言わなかった。俯いて黙ってしまう。
「今日は公爵様とお祝いに言ったのよね」
「ええ」
「それでそんな顔になって。どうしたのよ」
「だから別に」
 それでもリーザは言おうとはしない。従姉妹であるポリーナに対しても。
「言えないのね。じゃあいいわ」
 彼女を気遣ってそれ以上は尋ねはしなかった。
「また明日会いましょう」
「ええ」
 ポリーナもまた屋敷を後にした。そして自分の部屋へと戻る。フランス風の装飾で飾られた部屋であった。この装飾は自分でしたのではない。あの音楽教師の教えである。まずエレガントさは普段の生活からと言ってこうしたのである。彼女は何でもかんでも自国の文化を一番だと思っている。だからリーザに対してもそう教えていた。フランス人らしいといえばらしく、嫌味と言えば嫌味であった。

[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ