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スペードの女王
第一幕その四
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付き添いなんじゃないかな」
 ゲルマンは何気なくこう応えた。
「それなら」
「そうかもな。じゃあ・・・・・・んっ!?」
「どうしたんだい?」
「いや、その公爵だけれど」
 トムスキーは言う。
「見ろ、彼女の方に」
「まさか・・・・・・えっ」
 その通りだった。公爵は彼女の方に歩いて行く。
「どうして公爵が彼女に!?」
 ゲルマンは声をあげる。
「どういうことなんだ」
「待て」
 トムスキーは声をあげる友を制止した。
「ここは静かに。いいな」
「・・・・・・ああ」
 ゲルマンもそれに従った。そして様子を見ることにした。
「公爵」
 その少女は公爵ににこやかな顔を向けてきた。
「あの笑顔」
 ゲルマンはそれを見ただけで顔を歪めさせた。
「僕のものであればいいのに」
「静かに」
 そんな彼をトムスキーは窘めた。
「いいな」
「あ、ああ」
 頷く。そしてまた彼女を見る。
「如何ですか、御気分は」
「実にいい気持ちです、リーザさん」
「リーザというのか」
 トムスキーはその名を聞いて呟いた。
「聞いたな、ゲルマン」
「・・・・・・ああ」
 ゲルマンは物陰でこくりと頷いた。二人は物陰に隠れてそのリーザと公爵を見ていた。今隠れたのである。
「彼女はリーザというそうだ」
「リーザ・・・・・・いい名前だ」
 ゲルマンはその名を呟いていた。
「覚えたよ、その名前」
「そうだな。それで」
「貴女の御婆様には感謝しておりますよ」
 公爵はそんな二人に気付くことなくリーザに対して述べた。
「私達の婚約を許して下さって」
「はい」
「婚約だって」
 それはゲルマンが最も聞きたくない言葉であった。
「そんな・・・・・・彼女が他の男のものになるなんて」
「だから落ち着けって」
 トムスキーはまた彼を止めた。

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