暁 〜小説投稿サイト〜
スペードの女王
第一幕その二
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話

第一幕その二

 今は春だった。長い冬が終わりようやく春が訪れた。ピョートル大帝が造らせた夏の庭園に今子供達が集まって賑やかに遊んでいた。
「ほらこっちこっち」
「ボールはあっちだよ」
 ボールを手にしてそれを蹴ったり投げたりしている。縄跳びに興じている子供達もいる。
 そんな子供達を見守るのは母や姉達。彼女達も春の到来を喜んでいた。
「この街の冬は長くて厳しいけれど」
 その中の一人が述べた。
「それでも春は」
「いいものよね」
「ええ。子供達もずっと家の中に閉じ篭っていたけれど」
「春になると違うわ。こうして外に出て」
「私達もね」
 彼女達もにこやかな顔で言い合う。
「楽しみましょう」
「今日は怒ることもなく」
「朗らかにね」
「ねえお母さん」
 子供達が今度は母親達に声をかける。
「兵隊さん達が来たよ」
「あら」
「本当」
「一、二、一、二」
 子供達が早速兵隊の真似をして歩きはじめた。行進をはじめる。
 そこに見栄えのいい軍服を着た兵隊達が規律よくやって来た。銃を持って堂々と行進してきている。
 子供達はそれの真似をしているのだ。先頭にはしっかりと指揮官までいる。
「行くぞ、勇敢なる兵士達」
 その少年は笑顔で言う。
「我がロシアの敵をやっつけろ」
「そうだ、ロシアの敵を」
 他の子供達も言う。
「僕達がロシアの敵を倒すんだ」
「敵を倒すのは僕達の務め」
「武器を手に立ち向かい」
「敵共を懲らしめてやるのだ」
「いざ陛下の下に」
 言うまでもなくエカテリーナ二世のことである。実際にロシアはこの頃トルコと戦争をしていたしプガーチョフの乱も経験する。女帝の後継者であるサレクサンドル一世はナポレオンと激しく争った。実際に彼等も戦場に行くことになるのだ。
「偉大なる女帝」
「賢明なる女帝」
 子供達は口々にエカテリーナを讃える。実際に彼女はロシアそのものであるかの様に君臨して治めていた。農奴への圧迫はあったにしろ彼女は善政を敷き民衆から尊敬されていたのであった。
「我等が母なる女帝、ロシアを治められる女帝に栄光あれ!」
「陛下の為に!」
「僕達も!」
「あらあら、立派な兵隊さん達ね」
 母や姉達はそんな子供達を見て目を細める。
「これならどんな敵が来ても安心ね」
「トルコでもタタールでも」
 この時代でもタタールは脅威であった。少なくとも無意識下にまで浸透していた。
「やっつけてくれそうね」
「そうね、ロシアの敵も陛下の敵も」
「頼もしいわ」
「ええ」
 女達も目を細めてそんな話をしている間に二人の貴族がやって来た。春の光の下で彼等は何か話をしていた。
「スーリン君」
 金髪の男が黒髪の男に声をかけてきた。
「昨日の勝負はどうだった?」
 
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ