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スペードの女王
第一幕その二
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彼はそう尋ねた。
「ああ、昨日はさっぱりさ」
 その黒髪の男スーリンは金髪の男にそう答えた。
「全然だったよ」
「そうだったのか」
「チェカリンスキー君、君は来ていなかったね」
「ああ、昨日はね」
 チェカリンスキーは彼に対して述べた。
「子供がね。風邪をひいて」
「大丈夫だったかい?」
「ああ、今朝は元気だったよ。大したことはなかったようだ」
「そうか、それは何よりだ」
「うん。ところで」
 ここで話が変わった。
「どうした?」
「彼は昨日も来ていたのかい?」
「彼?ゲルマンのことかい?」
「ああ、やっぱり彼はいたのかい?」
「いたよ」
 スーリンは隠すこともなくそう述べた。
「そうか、やっぱり」
「相変わらずさ」
 そしてまた言った。
「勝負がはじまってから終わるまで。ずっとテーブルにいたよ」
「ワインを飲みながらか」
「ああ、そこまでいつも通りさ」
「他の人間の勝負を見るだけで」
「そう、そこも同じだったよ」
 スーリンは言う。
「全部ね。相変わらずさ」
「変わっているな、相変わらず」
「そうだね。相変わらず彼は変わり者だ」
「勝負をせずに」
「見ているだけ」
「何でまたそんなふうになっているんだろうな」
 チェカリンスキーにはそれが不思議でならなかった。
「何か倹約の誓いでもしているのかな」
「ああ、彼はあまり裕福な家ではないからね」
「そうなのかい?」
「本人が言うにはしがない貴族の家の次男坊で。食う為に軍人になったそうだ」
「食う為にか」
「まあ他に行くところがなかったということだな。それで士官になった」
「それでも。貧しいのか」
「軍人の給与なんてたかが知れてるさ」
 スーリンのこの言葉は事実であった。ロシアでは軍人の給与は決して高くはない。士官も貴族なのでその給与に頼らなくても充分にやっていけるからだ。むしろそちらの方が収入はずっといい。軍人は言うならば個々の責務や名誉なのである。だが例外も当然おり、ゲルマンがそれであった。彼は貧しいので軍人になったが結局貧しさは変わらなかったのである。それも若い将校ならば尚更だ。彼はずっと貧しいままであったのだ。

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