アインクラッド 前編
偽善の持つ優しさ
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拭するためだ。それに、食事代金の奢りという形で情報量も支払ってもらった。そして、そのときの思考回路にあったのは、あくまで打算。トウマが言うような感情などは、一片たりとも存在してはいなかった。
だが、そんなマサキを気にもせず、トウマは尚も笑顔で続ける。
「それに、キリトのことも許してたし。だから、やっぱり――」
「違う」
普段のマサキだったなら、「だろう?」と冗談めかし、流していた場面。けれど、何処からか沸いて出た苦しさが胸を締め上げて。
突如空気を切り裂いたマサキの言葉が、楽しげなトウマの声を上書きした。
「……お前は少し、人を疑ったほうがいい。俺がアルゴに情報を渡したのも、キリトを許したのも、自分に利益が出ることを見越したから。ただそれだけだ。――もしこれを善と呼ぶのなら。それは、ただの欲と打算で薄汚れた偽善に過ぎない」
マサキは目を伏せると、再び歩き始めた。まるで隣のトウマから逃げるように歩を進め、宿屋へと体を滑り込ませる。そのまま自分が借りている部屋がある二階へと続く階段に向かい――、
「待てよ、マサキ」
「…………」
駆け寄ってきたトウマに、手首を掴まれた。ぐいぐいと引っ張ってみるが、ここまで敏捷にステータスのほぼ全てを振ってきたマサキと筋力優先で強化してきたトウマとでは、筋力値が違いすぎた。マサキが諦めて力を抜くと、さっきとは打って変わって真剣な表情で、トウマが前へ回り込む。
トウマは暫しマサキの瞳をじっと見つめた後、再びその爽やかな顔に微笑を浮かべた。
「でもさ、例えマサキが偽善だと思っていても、相手がそれをされて嬉しかったり、感謝したりしていれば、それって結局、善と変わらないんだと思う。……だから、どんなにマサキが違うって言っても、マサキがしたことは善だし、やっぱりマサキは優しいんだよ」
「……馬鹿馬鹿しいな。仮に善か偽善かの判断基準が相手の感じ方次第だとしても、相手がどう思っているかなんて、解るわけが――」
「解る」
両手を肩まで挙げて歩き出そうとするマサキの言葉を、今度はトウマが遮った。三度マサキの前に出て、二階へと続く階段を、一段だけ登る。
「マサキの行動が偽善じゃなくて善なんだって、俺は解る。……だって、俺、マサキに助けられたから。――俺がマサキと出会わなかったら、多分、俺、自殺してた。あの時マサキが声をかけてくれなかったら、あの柵から飛び降りてた。俺が今ここにいられるのは、マサキのおかげなんだ。だから、俺はマサキに感謝してるし、実はマサキが誰よりも優しいやつなんだって解る」
「……もう、話す気にもならない」
一言だけ吐き捨てると、マサキはトウマを押しのけて階段を上る。
だが、二十段程度の階段を上りきったとき、またしてもトウマに呼び止められた
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