アインクラッド 前編
偽善の持つ優しさ
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ないだろうが」
目の前で起きた事象が理解できず、知らず知らずのうちに頬をつねっていたキリトに、マサキは苦笑しながら言った。続けて、「何故?」と問いかける目線に答え、説明を開始する。
「原則として、このSAOに存在するオブジェクトは、一部の《破壊不能オブジェクト》を除いて、現実の物理法則に従う。……つまり、全てのものに構造上の弱点が存在するわけだ。だから、あの岩の性質や重さ、直径なんかが解れば、後は方程式を解くだけで割れやすい場所が計算できる。――さて、それじゃあ最後は俺か。……ここだな……ん?」
先ほどまでとは違った意味で呆然と立ち尽くしているトウマたちをよそに、マサキが岩に狙いを定め、腕を振りかぶろうとした、その時。
マサキの脳に、ピリッという、まるで誰かに見られているような感覚が走った。すぐに振り返り、視線と索敵スキルを併用して辺りの人影を探すが、どちらにも反応はない。
(……気のせい、か)
マサキは再び構えを取り、岩にパンチをぶつけ始める。
十分後、きれいさっぱり崩れ去った三つの大岩を見て、キリトは思わずにはいられなかった。
……自分がこれまでに費やした三日間は、一体何だったのだろう、と。
「いやー、食った食った!」
「お前は間違いなく食いすぎだ」
「えー、いいじゃん、奢ってくれるって言われたんだから」
「……それが俺のおかげだってこと、お前理解してるか?」
「してますしてます。どれもこれも、マサキ様のおかげですます」
「……ハァ。どうだか」
見事大岩を砕き、《体術スキル》を獲得したマサキたちは、アルゴたちとの食事の後、どっぷりと日が暮れたウルバスの街並みを、宿に向かって歩いていた。この辺りのフィールドは夜になると出現モンスターのレベルが上がるため、昼間は人の波がうねっているこの通りも、今出歩いているプレイヤーは皆無。そしてそのことが、ただでさえ冷たい空気の温度をさらに下げている。
やがて二人が宿泊する宿の看板が視界に入った頃。トウマが不意に呟いた。
「――でもさ。今日改めて思ったけど、やっぱマサキって優しいよな」
「……え?」
その、何の脈絡も存在しない声に、マサキは驚きの声を上げ、立ち止まってしまった。すると、トウマが楽しげな笑みを浮かべて振り返る。
「だってさ、アルゴに情報渡してたじゃん。あれ、あいつのことを思ってのことだろ?」
「…………」
マサキは立ち止まったまま、理解できないことを表情に滲ませた。
――確かに、マサキはアルゴを交えた食事会で、アルゴに《体術クエスト》に出現する大岩の、弱点の場所を教えた。だがそれは、あれほど日常的に追い掛け回されていたら、こちらが依頼した情報の調査に手間取ってしまうのではないか、という懸念を払
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