アインクラッド 前編
偽善の持つ優しさ
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がらトウマの脳内を駆け抜けた。完全に脳を右から左へ通り抜けていった情報と、今起こった謎の剣閃の詳細を訊こうと相方に目をやる。
そして、彼の顔に描かれた三本の線に、目が釘付けになった。こちらの心中を悟ったらしいマサキが、相変わらずのポーカーフェイスで口を開く。
「クエスト条件はこの岩を素手で破壊すること。ちなみに、このペイントはお前にも描かれてる」
「え?」
マサキの、表情同様に淡々とした口調で語られた情報を整理するのに、トウマは数秒の時間を要した。そして、暫しの沈黙の後、先ほどの剣閃が自らの顔にペイントを施していたものだと悟る。そういえば、今まで見ていたキリトの顔にも、見慣れない三本線がくっきりと描かれていた。何故数分前の自分はあのペイントをスルーできたのか、疑問を通り越して呆れさえ感じる。だが、トウマの思考はこの時、もう一つの情報に対する疑問で占められていた。
「ん? 岩?」
マサキはクエスト条件として、“岩を素手で割る”ことを挙げたが、この庭にあるのは岸壁ばかりで、岩などは見当たらない。トウマが向けた疑問のまなざしにマサキが答え、顎で方向を示すが、その方向に岩などはなく、あるのは延々と続く岸壁――、
ではなかった。上に視線を向けると天辺が円形になっているのがよくわかる。つまり、今までトウマが壁だと思っていたものは全てクエスト用の大岩であり、キリトが必死に拳をぶつけていたのもこれだったのだ。そして、自分もまた、この岩を素手で砕かなければならない。
「…………」
トウマは言葉を失い、酸素を求める金魚さながらに、茫然自失の状態で口をパクパクと開閉させる。と、ここで限界を迎えたアルゴが膝から崩れ落ち、マサキ、トウマ、キリトの三人が作り出す静寂を、アルゴが甲高い笑い声で上書きした。
ここで話は最初に戻る。
目の前に立ちはだかる、というよりも、もはやそびえ立っているという表現のほうが適切なのではないかと思わせるような大岩を見上げ、マサキの横で、トウマは「……マジかよ……」と嘆いた。その声は一番近くにいたマサキ以外には聞こえないほどに小さかったが、それが逆に衝撃の大きさを物語っている。数メートルほど離れたキリトも、二人にクエストを中止させられなかったことに罪の意識を感じ、言葉を発することはない。
だが、三人のうちマサキだけは、彼らと同じく無言ながら、頭の中ではまったく別のことを考えていた。
そもそも、この庭に連れてこられた時点で、三つの大岩、さらにそれを殴る一つの人影、という二つのピースから、ある程度この状況を推し量っていた。そして、それでもクエストから逃げ出さなかったのは、このクエストにおけるショートカットの方法や、その方法が通用しなかった場合のリカバリー方法まで考えていたからに他な
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