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スペードの女王
第三幕その二
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悪夢だったのさ」
「そう、じゃあ」
「うん、これからが本当なんだ」
 ゲルマンは答える。
「苦悩も涙ももうない、僕は天使と一緒なのだから」
「何処までも。私達は」
「そうさ、じゃあ行こう」
「何処へ?」
 リーザはその場所を何処か問う。
「何処かって?決まってるじゃないか」
「私達の愛の巣じゃないの?」
「賭博場さ」
 ゲルマンは答えた。
「賭博場だって」
「僕は夢を掴むんだ。そこで夢を」
「何を言っているの、ゲルマン」
 リーザは行こうとするゲルマンの裾を握った。
「行っては駄目よ、今の貴方は」
「そこに僕の全てがあるんだ、何もかも」
「私だけじゃ駄目なの?私は貴方さえいれば」
「リーザも何もかも。そう、僕はリーザを手に入れる為に賭博場へ」
「私はここにいるわ」
 必死に訴える。だがゲルマンの目にはもう現実の彼女の姿は映ってはいなかった。
「三枚のカードの秘密を知ったから。それで僕は」
「待って、行かないで」
「行くんだ、リーザも夢もそこにあるから」
「どうして、私が見えないの!?」
「見えるさ、そして聴こえる」
 見ているのは遥か遠くだった。もう現実も夢幻も彼には同じものとなっていた。全てが怪奇に混ざり合い一緒になってしまっていたのだ。
「彼女が」
「どういうことなの・・・・・・私の声まで聴こえないの!?」
「リーザ、今行く!」
 そう言ってリーザの手を振り解いた。
「今君を手に入れる為に。待っていてくれ!」
「ゲルマン!」
 そして橋から去り停めてあった馬に乗った。蹄の音が遠くに去っていく。それが彼が去っていく音に他ならなかった。
「どういうことなの・・・・・・」
 リーザは橋の上に倒れ込み呟く。
「もう私のことは・・・・・・現実には目に入ってもいないし耳にも聴こえていないというの?」
 もうゲルマンは狂っていた。この世界にはいない。それを今感じずにはいられなかった。
「全てが終わるのね。もう彼がここにいないから」
 それを悟った。ふらふらと立ち上がる。
「それなら・・・・・・もう」
 泣いていた。涙が川に落ちる。そして。
 リーザもまたその身を落とした。暗い川の中に。今ゲルマンは天使を失った。しかし彼がそれに気付くことはなかった。その天使を手に入れる為に今向かっていると自分では思っていたのだ。

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