第二十二話 夏休みその十三
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「その時にならないとわからないな」
「その時か」
「大学でも部活、サークルか」
「そっちやるか、大学でも」
「そうなるかも知れないからな」
「俺だって今もサークルしてるけれどな」
兄は笑って言った。
「落語な」
「落研か」
「面白いぜ、落語もな」
「あたし漫才派だけれどな」
「漫才もいいけれど落語には落語のよさもあるんだよ」
どちらもいいというのだ。
「どっちにもな」
「それで兄貴は今落研か」
「間合いってあってな」
落語の質はこれでかなり決まると言っていい、早過ぎず遅過ぎず、それで進めてこそ落語だと言われているのだ。
「それをどうするかなんだよ」
「間合いかよ」
「ああ、最近関西じゃ無茶苦茶早い落語もあるだろ」
「あっ、そうなんだな」
「あるんだよ、それでな」
兄は妹に話していく。
「俺は今な」
「間を勉強してるんだな」
「そうなんだよ、野球でも緩急って大事だろ」
ピッチャーの投球である。
「速球とな」
「緩いボールだよな」
「スローボールでもいいし」
緩い球は他にもあった。
「スローカーブなりチェンジアップな」
「あとパームもだよな」
「緩急があるとな」
ピッチングにだというのだ。
「全然違うだろ」
「確かにな、そういうピッチャーも打たれにくいよな」
「藤川さんみたいな剛速球でもいけるけれどな」
「またあの人は別格だからな」
「とにかくあれだよ。落語もな」
「間か」
「それだよ、サークルでそれを勉強してな」
そしてだというのだ。
「バイトでもそれを活かしていけるかって考えてるんだよ」
「兄貴も青春が充実してるな」
「俺もそう思うよ」
彼自身もだというのだ。
「そうな」
「ああ、そうだよな」
「いいことだよな」
「本当にな」
美優も兄の言葉に頷く。そのうえでだった。
野菜ジュースを飲みつつ兄にこのことを問うたのだった。
「森鴎外だけれどな」
「明治の文豪のか?」
「あの人って最低か?」
「人間としてはかなりな」
兄も言うことだった。
「酷いだろ」
「やっぱりそうか」
「だってよ。脚気といいな」
兄もこのことは知っていた。
「それにな」
「舞姫か?」
「留学先の女の子こまして妊娠させてだよな」
「ああ、そうらしいよな」
「親の言うことには逆らえなくてな」
「マザコンだったのかよ」
「しかもファザコンで息子さんや娘さんの名前もな」
それもだったというのだ。
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