暁 〜小説投稿サイト〜
スペードの女王
第二幕その五
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
「それは何ですか?」
「私の運命です。三人目に私にカードの秘密を教えに乞う若者は」
「まさか」
「情熱に狂った堕天使だと」
「僕は堕天使なんかじゃない」
 それをすぐに否定する。
「僕は僕だ。どうして堕天使なんかに」
「その堕天使に出会った時が私の人生の終わる時。だから」
「まさか」
「そうです。私は今死にます」
「馬鹿な、今こうしてお話しているではありませんか」
「運命は誰にも変えられないもの」
 伯爵夫人の言葉は不気味なまでに透き通り、そして暗いものであった。
「ですから私もまた」
 ゆっくりと目を閉じていく。
「そんな、まだ秘密は」
「さようなら、堕天使よ」
 ゲルマンに対して言う。
「己の破滅から。逃れたいならばもう」
「破滅してもいい」
 ゲルマンは叫ぶ。
「リーザと一緒になれないのなら僕は破滅してしまえば」
「その言葉こそが貴方を破滅に導くもの。覚えておきなさい」
「待って下さい、奥様」
 ゲルマンは必死に声をかける。
「カードの秘密を。是非」
 だが返事はなかった。伯爵夫人は一人息を引き取った、まるで全ての命をそこで消してしまったかの様に。眠る様に死んでしまったのであった。
「どういうことなんだ」
 ゲルマンはまだ伯爵夫人の死を信じられなかった。
「今まであんなにはっきりしていたのに。死神に取り憑かれたみたいだ」
「ゲルマン」
 ここで扉の向こうからリーザの声がした。
「どうしたの?」
「リーザか?」
「ええ。そこにいるのね」
「そうだけれど」
ゲルマンの返答はくぐもったものだった。
「御婆様も御一緒ね」
「だけれど」
「どうしたの?」
「来てくれるかい?」
「ええ」
 その言葉に従い仮面を外したリーザがやって来た。そして壁のキャンドル達に照らし出された部屋の中を見て思わず息を飲んでしまった。
「御婆様・・・・・・」
「僕がやったって思ってるのかい?」
「貴方ではないの?」
「違う。見てくれ、僕は何も持ってはいない」
 両手を見せて言う。伯爵夫人は眠る様に椅子に横たわってはいるが傷一つなかった。
「どういうことなの?」
「話していたら急に死んでしまったんだ。これも運命だと言ってね」
「運命・・・・・・どういうことなの?」
「カードの秘密を聞きに来たから死んだらしい、僕がね」
「貴方が」
「よくわからないけれど」
「けれどゲルマン」
 リーザはふと気になった。
「どうしてカードのことを」
「決まっているさ、その謎を知ってそれで」
「お金!?」
「それ意外に何があるんだ」
「まさか貴方」
「どうしたんだい、リーザ」
 リーザはふと思っただけだがゲルマンはもう完全に何が何かわからなくなっていた。
「お金を手に入れてそれで」

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ