暁 〜小説投稿サイト〜
シャンヴリルの黒猫
31話「スレイプニル (1)」
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「どうしたの? 2人とも」

「…いや、何でもない」

 気づかないユーゼリアが声をかけると、アシュレイだけが普段の微笑を浮かべて返した。クオリは不審げに店主を見る。店主は扉の前で立っていたが、内心ひやひやしていた。

(まさかあの2人、気づいたのか? ……いや、まさか、な)

 馬小屋は予想外に大きく、10頭分くらいは余裕で入るだろう大きさだった。木製の扉には、鉄の鎖が巻かれ、南京錠で止められていた。

「……」

 バレないように辺りを見回すと、ちょうど店主の立っている向こう、角に、同じような鉄の鎖がジャラジャラと捨ててある。思わず溜め息をついた。

(どうやら、嫌な予感は当たったようだな)

 思ったより重々しい音をたてながら開いた扉の奥は、真っ暗だった。中の空気はひんやりとしており、どこか薄気味悪く感じた。ユーゼリアが戸惑いの声をだす。

「あの……?」

「まあ待て。今窓を開ける」

 錆びた鉄がこすれる音と共に暗闇に光が差した。他の窓も次々開き、やっとすがすがしい風が頬を撫でる。

「やはり……」

「これって…!」

 クオリの呟きは、ユーゼリアの声にかき消された。

 中にいたのは、たった1頭の“馬”。だが、ただの“馬”ではない。

「これって……魔物……?」

 大きさは普通の馬より一回り大きいくらい。シルエットも確かに馬ではあったが、日の光の下にでると、それは明らかに一般的に指す“馬”とは違った。

 まず、皮膚が鱗だった。それも、ただの鱗ではない。質は竜のそれと同等だ。生半可な剣では、逆に剣が砕けるであろう硬度である。色は紫がかった銀色。身体全体を隈無く覆う鱗は、日光に照り輝いていた。
 尾は、ふさふさの毛ではない。蛇のようにしなやかで長く、先端には一瞬ただの真っ直ぐで艶やかな毛のように見えるが、その実鋼鉄のワイヤーよりも頑強な剛毛が、柔らかく垂れ下がっていた。スナップを利かせれば、岩をも砕く破壊力を持つ。たてがみもこの毛が生え、首もとを保護していた。
 そして何より目を引くのが、頭にある鋼の塊である。あたかも死神の鎌のようにも見えるそれは額から生えており、目はなく、目隠しをするように鎌に繋がるプレートとなっていた。

 さしものアシュレイも、思わず目を見開いて固まった。クオリなど青ざめるを通り越して白くなっている。思わずアシュレイのコートを握ったのも、多目に見てやってほしい。


 なぜなら、この“馬”は――


(なぜ同胞(はらから)が、ここに!?)



 ――【魔の眷属】第六世代「スレイプニル」なのだから。


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