29話「ユリィの常識講座A “女の子を前に「重い」は禁句です”」
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オリもユーゼリアと離れたくなかった。とある事情でエルフの里を出たクオリだが、以来友人と呼べるような人間関係は築いていなかった。ガーク達のような臨時パーティを組むことはあっても、すぐ解散されるのがオチだ。せっかくできた友人、それも自分がエルフと知った上で、その厄介さを理解した上で、仲間になってくれようとするユーゼリアに、離れ難いという感情が芽生えるのは、当然といえた。
だが、それでも迷った。それほどに思う相手だからこそ、共に行くことに迷いを感じた。
「……とりあえず、宿に戻ろうか。冷えてきたし、何も今すぐ答えを出せというわけでもない」
「そうね。そうしましょう」
「…はい」
ユーゼリアを中心に、横になって歩く。しばらくして、ふと思い立ったようにクオリが言った。
「そういえば、アッシュさん、わたし達を抱えてよくあんなに速く走れましたね」
「ああ、あれくらいの重さなら余――ぐぇっ」
余裕、と答えようとしたアシュレイの脇腹に、ユーゼリアの肘鉄が炸裂した。
「…こういうときは、“軽さ”って言って頂戴」
「え、別に同じ意味ぐほぇっ」
「……」
「……………………ハイ」
そうか、これが女性への気遣いか、と彼は悟った。2回連続で綺麗に入った脇腹は、ジンジンとまだ痛みの余韻が残っている。
「で?」
「あ…ああ。いや、何でも……」
今更蒸し返すほどのことでもない。というか言い直す方が恥ずかしい。
ふふんと笑った後に、ユーゼリアが言った。
「私の常識講座その2。女の子に体重の話は、禁物よ」
「ハイ…」
なんだか言い負かされた感がある。が、
「ふわぁ、リアさんって…強いんですね!」
「……ぷっ」
「……くっ」
クオリの感嘆の言葉に、2人で吹き出す。
「くははは…っ」
悪い気は、しなかった。
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