第二十六話 少年期H
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よな。それをしてはいけない、と教えてくれるような誰かがいるやつらから見れば……。そんな誰かを持っているガキに、同情だけはされたくない。
正義感ってやつか。……上等だ。俺は逃げようとしていた意識を切り替え、前方に注意を向ける。馬鹿な正義感を振り回す暇があるのなら、後悔させてやる。気持ち悪い感情にイライラする思考。もうこいつとの間に会話はいらない。
俺もコートのポケットの中に手を入れ、折りたたんでいたナイフを静かに握った。相手はデバイスを持っている。だけどまだ待機した状態のままであり、速攻で近づけば……潰せそうな距離だ。
人にナイフを向けることに一瞬、震えが走る。けれどすぐにナイフを強く握りしめることで、その考えを振り払った。いずれこういうことにも慣れていかなければならないだろう。俺が生きているのはそういう世界だ。それに今回は、ムカつくガキを多少脅して泣かせるぐらいのこと。……簡単だ。
やつがポケットから手を出した動きと同時に、俺は駆け出した。姿勢を低く保ち、ギリギリまで一気に距離を詰める。そいつはポケットから取り出したものを自身の前に掲げているだけで、俺の動きには気づいていない。馬鹿だ、と内心に暗い笑みが浮かんだ。
……だけど、俺もまたそいつの行動に気づいていなかった。だから耳に入ってきた言葉に思考が停止した。
「実はこのペンダントさ。さっきおじさんとぶつかった時に君が落としたのを見たんだ。だから時間があるし届けてやろうと思って――へ?」
「――は?」
目の前まで接近できてから告げられた言葉。今までの会話を振り返ってみると、そういえばこいつぶつかったのを見たと言っただけで、何を見たのかは言っていなかった。もしかして俺、盛大な勘違いしてた?
それに気づくと同時に、足が絡まる。トップスピードで走っていた勢いも相まって、止まれない。目の前には茫然と立ちすくむそいつと、『うわぁ、直撃コース』とまたもやのんきなデバイスの声。こいつ後ではたいてもいいかな。
それからすぐに、寂れた路地裏にまたもや響いた鈍い音と、ホラー映画のBGMのような声がこだましたのは言うまでもない。
******
「それ、そんなに大事な物だったの? なんかごめん。まさかとびついてくるほど大切な物だと思わなくて」
「うるさい、もう喋るな。今のは忘れろ。マジで忘れろ」
痛みが多少引き、お互いに地面に座り込みながら会話をする。こいつは本当に俺の落とし物を届けに来ただけらしい。ポケットから取り出されたペンダントは、間違いなく俺の物だった。いつの間に落としていたのだろう。
だいたい俺は、1度こいつに気絶させられているんだぞ。もし俺がやったことを見ていたのなら、とっくに警官に突き出されて
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