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Dies irae~Apocalypsis serpens~(旧:影は黄金の腹心で水銀の親友)
第二十九話 流れ出す前兆、軍靴の灯火
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―――諏訪原タワー付近―――

「他力など当てにせん。俺は二度と蘇りたいとも思わない。であれば、この戦いを最後に幕を引くと、強く渇望するだけだ。
ハイドリヒが本当に俺を解放するかは、お前を殺して見なければ分からんが……少なくともお前がハイドリヒを斃すよりは、確率的にありえよう」

直接意識に語りかけてくるパシアスと目の前の敵マキナ。二人の言葉は俺を驚愕させるに値するものばかりだった。
蠱毒の兄弟、既知の感覚、非望の恋慕、共に駆けた戦友……次々と頭に思い浮かべては否定と肯定を繰り返す思考の煩雑。俺は一体何を感じているというのだ?

『貴方のその違和感は正しいものよ。貴方はそれを知っていると同時に経験した事実ではないということ。だから貴方はその経験をなぞるように模倣している』

なんだそれは。だとしたらそれはまるで俺という存在の根底は全くの別人(・・・・・)だということに――――――

「解せんな、如何いうことだ?」

マキナがそう呟き拳を振り下ろす。それをギリギリで躱した俺はそのまま半回転するように蹴りを入れ、その反動で距離を取る。奴が俺の一挙一動を理解しているのと同様に俺自身も感覚的に奴の動きを理解できていた。

「何がだ?」

俺はそれが何に対していっているのか全く検討も付かない。いや付きたくないだけなのかもしれないが。

「俺とお前はある日、何処とも知れぬ戦場で共に斃れ、ハイドリヒの城で目覚め殺しあった戦奴だ。だからこそ俺達兄弟は互いに動きを理解し、全く同じ戦いを見せるはずだ。だが今のお前の動きに俺は違和感を感じた。お前のその動きは俺の予想していたものと違うと」

何だと?俺はそんなものを全く感じずにいた。今も鏡合わせのように俺達は戦っているはずだ。現に奴が今、目の前で振り下ろしている左腕を俺が躱し、こいつは下から右腕を振り上げる気でいる。それすら避けたところで奴は俺の軸足を脚で捕る気でいることを理解した。
だからこそ俺は半歩分多くそれを回避する。奴もそれくらい予測できるはずだと俺はそう感じていた。

「何?」

そう思っていたにも関わらず、こいつは俺がそうやって躱したことに驚愕をあらわにする。だがその隙は見逃すほど小さいものではない。

「つ、オオオォォォォ―――!!」

絶好の反撃の機会。それは長引いていた闘争の中で漸く出来た致命的な隙だった。首を断つ一筋。奴は俺のこの反撃を対処することが出来ない。だからこそ違和感が俺にも募った。

―――都合が良すぎる。

これがカール・クラフトの望んだ結末にしては余りに…余りにも可笑しい。何故なら俺はこんな結末を知らない(・・・・・・・・・・)

悪寒が走る。己の足元がぐらつく様な感覚。今決着を尽ければ、俺は確実に堕ちる!
だが
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