第十九章
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1分もないだろう。だったらやはり何処かに隠れて追っ手をやり過ごしてから目的地に向かうべきか?
しかし、追っ手が目的地を知っていた場合は?
先回りされて拿捕されるだろう。俺が突然姿をくらましたことに頓着もせずに通り過ぎたことを考えると、多分奴らは俺の行き先を知っている。さて、困ったな。
諦め半分に目を上げた瞬間、俺の中で希望と焦りがないまぜになって膨らんだ。
ここから見える、次のカーブにさしかかる辺り…100メートルは先になると思うが、その先に、山腹を切り開いて作られた駐車場が見えた。駐車場の奥には、古びた寮のような…『少年自然の家』のような建物が見える。
間違いない、こんな山腹に不自然に建つこの建築物は、姶良が言っていた『MOGMOG開発室』とやらに違いない。
その発見と同時に、不吉な排気音が背後から迫ってくるのを感じた。…走るしかない。俺はリュックを引っつかんだまま、狂ったように全速力で走り出した。
空気が薄い。息が詰まる。…全身が痛い。
今、俺の全速力はどれほどなのだろう。たった100m足らずだというのに、一向に辿り着けない。さては距離の目測を誤ったか。苦しい息の下、軽く舌打ちをした。
排気音は確実に迫ってきていた。ああ嫌だ嫌だ、俺は追ったり追われたりする緊張感が大の苦手なのだ。ビビリだから。
こんな真冬だというのに腋の下はびっしょりだ。…後方で、車のドアが盛大に閉じられる音がした。…そうか、もう走って捕まえたほうが早いくらいに、俺は弱っているのか。
足音は、じりじりと俺に近づいてきていた。…速い。いや、俺が遅いのか。やがて耳元に、荒い呼吸が迫ってきた。…もう、駄目だ…。
突如、思わぬ方向から肩を掴まれた。一瞬心臓が大きく脈打ち、全身に痺れが走った。…やがて視界が黒い渦に巻き込まれていく。…俺は気を失うんだな。そしてデータはあいつらに…。くそ。
意識が渦に飲まれる直前、ぐいと顔を上げた。
俺のリュックに手を伸ばした奴は、二人。
黒いスーツの男と、何やら異臭を漂わせた、薄汚い髭だるまのような男。俺の肩を掴んだのは、髭だるまの方だった。俺は咄嗟に、手にしたリュックを髭だるまに押し付けた。その直後、背中に蹴られたような衝撃。渦がぐるぐる、目の前が真っ暗に…
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