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くらいくらい電子の森に・・・
第十九章
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ランドナーのハンドルがふいに『かりっ』と切れて、俺は道路脇の薮に投げ出された。
半端ない坂道をノンブレーキで下ってきたのだ。60キロ近い加速がついた俺の体は、激痛を感じる間もなく地面に叩きつけられ、激しくバウンドしながら転がった。耳元で『ぐしゃり』『ごり』『しゅば』と嫌な音がした。
「…っつ…」
…痛い。しかし声は出る。腕をついて半身を持ち上げてみた。…凄く痛いが、腕も問題なく動いた。足も二、三度曲げ伸ばししてみる。打撲系の激痛が走るも、骨が折れてる感じではない。運がいいな、俺は。
――体の無事を確認すると、ふいに追っ手が気になって首をもたげてみた。ノンブレーキでカーブがきつい山道を下ってきたのだ。車相手といえど、相当距離を稼げたはず…

という俺の考えが甘かったことを知り、愕然とした。

追っ手の車は既に、最後のカーブに差し掛かっていた。俺を見つけるまで、あと10秒といったところだろう。いや、もう見つかっているのか。しかもデータを入れたリュックは、転んだ拍子に崖の向こうに落ちていった。
この坂道をあと1kmも下れば、目的地だったのだが。…呪われたランドナーは所詮、持ち主を呪うだけだ。奴がもたらすのは不運であって悪運ではなかった…。
…眩暈がした。現役受験生の頃、第一志望の受験票をなくした時に、同じような眩暈に襲われた覚えがある。これを絶望感と言うのだろうか。
すまん、姶良よ。俺はここまでだ――
ふいと視線を落とすと、リュックが落ちていった崖の下を覗けることに気がついた。
「…ありゃ」
四角いコンクリートで舗装された『崖』は5m足らずの高さだ。崖の下は、ここと同じく舗装された道路。ほぼ目と鼻の先に、俺のリュックが転がっている按配だ。
「意外と降りやすそうだな…」
…とはいえ、リュックと同じく崖下に放り出されていたら大怪我はまぬがれなかった。重畳、重畳。
ランドナーが転がっている方を伺う。丈の高い枯れ草が偶然カムフラージュしてくれて、道路からは見えなそうだ。俺も息を潜めて枯れ草の合間に体を沈める。冬だというのに、嫌な汗が腋を伝う。通り過ぎろよ、そのまま通り過ぎろ……!もう、ビリケンから実家の近所で奉ってた安産の神まで、頭に思い浮かぶ全部の神に祈りまくった。

――追っ手の車は、あっけない程やすやすと俺達の横を通り過ぎた。

肺の中の空気を一気に吐き出し、深いため息をついた。…白い。そして寒い。いや、そんなこと思ってる場合ではない。
痛む体を騙し騙し、慎重に崖を下る。そして周囲を見渡し、リュックを拾う。…ここの山道は確か、ひどく蛇行する一本道だった。ということは奇しくも近道に成功したということか。しかしランドナーがコケて、機動力は格段に落ちた。このままでは追いつかれるのは時間の問題…多分、猶予は
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