第十三話「夢」
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すまない、そうしてくれると助かる」
少女の言葉にホッと安堵の息を零す。
「随分とお人よしなのね。ただの口約束なのよ?」
「確かに口約束と言えばそれまでだが、俺は君が約束を破るとは思えないな。これでも人を見る目はあるつもりなんでね」
「……」
少女の頬が僅かに赤く染まる。
「さて、出口まで送ろう。また精霊に襲われた目も当てられないからな」
「あ、ありがとう……」
「ん? 靴が脱げたみたいだな。仕方ない……、ほら」
少女の素足が傷だらけなことに気が付いた俺は、彼女を自身の背に乗っけた。
「あの、わたしの胸が背中に当たってるんだけど……」
「うん? なにか言ったか?」
「な、なんでもないわ――きゃっ」
頬を赤らめたまま顔を逸らす。少女を背負った俺は跳躍し木々の枝を足場にさらに跳躍した。可愛らしい悲鳴をあげた少女が俺の背中にしがみつく。
「は、速いわね……!」
「速い方がいいだろう?」
「そうだけど……! こ、これは速すぎじゃないかしら!? というか、なんでこんなに速く走れるの!?」
「鍛えているからな!」
ものの数分で森の入口に到着した俺は少女を背中から降ろす。少しふらつきながらも、少女はしっかりとした足取りで俺に向き直った。
「ここまででいいわ。あとは一人で帰れるから」
「そうか。まあ、もう精霊に襲われないように気を付けるんだな」
「ええ、ありがとう。あの――」
「うん?」
「あなたの名前を聞かせてくれない?」
「……俺の名前を?」
しばし迷った俺だが、もう会うことも無いだろうとの考えに至る。
「クー。マハト・ア・クーだ」
「クー……」
少女は口の中で転がすように数回繰り返すと満足げに頷いた。
「えーと、その、また……会えるかしら?」
「さて。運が良ければ会えるかもしれないな」
「じゃあ、また会えることを祈っているわ、クー」
そう言って笑顔で去って行った彼女を見送った俺も〈次元跳躍〉で自宅へと戻った。
そう遠くない未来で再び出会うとは、この時の俺は露ほども思わなかった。
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