第百十九話 一枚岩その十五
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「その際にはこの寺の他の僧侶達にも気付かれぬ様にな」
「ですな。この寺において我等は少数」
「あの者達は大和の者達」
「我等まつろわぬ者達とは違います故」
「それはなりませんな」
「うむ、我等は闇」
また言う崇伝だった。
「魔界衆のことは知られてはならぬ」
「はい、決して」
「我等のことは」
「その通り、しかし織田家には既に松永めが入っておるが」
崇伝のその顔が歪んだ、そして彼のことを言うのだった。
「あ奴は何もせぬのう」
「はい、全く」
「ただ織田家の中にいるだけです」
「織田家の中で相当危険に思われていますが」
「動きは見せませぬ」
「妙に楽しんでおる様な」
「我等の血は裏切れぬ」
今度は血のことが話に出た。
「決してな」
「はい、それはですな」
「何があろうとも」
「まつろわぬ者の中でも大和に入りそこで生きておる者達もおる」
崇伝の話に暗い怒りが宿っていた、それは見えにくいが決して消えることのない怪しいものであった。
その怒りでこう言うのだった。
「鬼や土蜘蛛が人の中で生きられるのか」
「どうも自然に入っていますが」
「それでもですな」
「思えばあの山姥めもだった」
怒りは妖怪と言われる存在にも向けられた。
「坂田金時を育てたが」
「我等の中の豪傑を多く倒した源便光一党の一人を」
「そうしましたな」
「余計なことをしてくれた。魔界衆でありながら大和の子を育てるとは」
「だからあの者には刺客を送りましたが」
「逃げ延びましたな」
「今は何処にいるかわからぬ」
実に忌々しげな口調だった。
「果たしてな」
「しかし見つけたその時は」
「容赦しませぬか」
「そうじゃ、あ奴は許さぬ」
崇伝の怒りは収まらなかった、その静かだが陰にこもった怒りは続きそれを闇の炎で燃え盛らせていた。
その上でこうも言うのだった。
「あの者はまだ生きておるな」
「はい、どうやら」
「仙術も身に着けております故」
「相当長く生きられます」
「そうですから」
「そうだな。ではまだ追う」
その目にも闇の炎があった。
「そうするぞ」
「名前と顔を変え遊んでいるやも知れませぬな」
ここで一人の僧が言った。
「案外」
「闇の衣を脱いで久しい、それもあるな」
崇伝もその可能性を否定しない。
「虱潰しになるか」
「流石に我等がいるこの都には来ぬでしょうが」
「ここは長い間我等の潜んでいる場所でもありますから」
「それだけはありませぬな」
「流石に」
「うむ、それはない」
崇伝もそう見ていた。
「わしがここにいるのはあ奴も知っておるからな」
「ですな。それだけはありませぬな」
「都だけは」
「うむ、ない」
決してだというのだ、崇伝は言う。
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