第百十九話 一枚岩その十三
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「雪斎殿は禅宗の方で南禅寺とも縁があるが」
「それでも。どうも」
「わからぬものはわからぬか」
「そうかと」
「では仕方ないのう」
信行も諦めるしかなかった。
「ではよいわ」
「そういうことで」
「雪斎殿が最も戸惑っておられるだろうしな」
「実際に首を傾げておられるとか」
南禅寺の今の状況にだというのだ。
「どうしてあの様になったのかと」
「やはりそうか」
「はい、あの崇伝殿のことも御存知ない様で」
「同じ禅僧であってもか」
「はい」
それでもだというのだ、禅僧としてその名を知られた雪斎ですらそうだということが余計に怪しいことであった。
そのことに信行達も怪しむ、しかし今は深く怪しんでいる状況ではなかった。
人夫の一人が彼等にこう言ってきたのだ。
「申し訳ありませぬが」
「うむ、水時計が落ちたか」
「はい」
こう信行にも答えてくる。
「今しがた」
「わかった、では今からまた仕事じゃ」
「わかりました」
「飯は食したか」
「たらふく」
人夫は明るい声で返してくる。
「もう腹一杯でございます」
「では思う存分働けるな」
「それこそ馬の様に」
「わかった、でははじめるぞ」
信行も明るい調子で返す。
「それでよいな」
「さすれば」
「では皆の者休憩は終わりじゃ」
信行はその場にすくっと立ってそのうえで一同に告げた。
「働くぞ、よいな」
「ではこれからもやりますか」
「思う存分」
人夫達も笑顔で応える、そしてだった。
彼等は早速働きはじめた、今彼等は都をかなりの速さで整えていた、都の荒廃も球速に消え去ろうとしていた。
信長の天下が近付いていると誰もが思っていた、しかしその南禅寺の奥で何から何まで闇の色の僧衣を着た者達があれこれと話していた。
「暫く織田家の動きはないか」
「戦よりも政に専念したい様じゃな」
「そうか、では動きはないか」
「うむ、ない」
「数年はないぞ」
信長は戦で瞬く間にその勢力を大きくしたが暫くの間はその戦をしないというのだ。
「数年経てば、じゃがな」
「その時はですな」
「織田家も遂に、でございますか」
「また外に向かって動く」
「そうしてきますな」
「うむ、するであろうな」
闇の僧衣の上にやはり闇の色の僧衣を着た男が応える。
「数年経てばのう」
「ではその戦の時にですな」
「我等は仕掛ければよい」
「さすれば織田信長を倒せる」
「そうなりますな」
「信長は日輪じゃ」
それだというのだ。
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