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くらいくらい電子の森に・・・
第十八章
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所に辿り着いてしまった人間、だったんだ。
「…そんなのだめですよ!奥さんとか、お子さんとかどうするんですか!!」
八幡が、悲鳴のような声をあげた。
「生命保険が、かけてある。勤務中の事故だから、労災もおりるだろうね」
「そんな…お金のことじゃなくて…!!」
顔を覆って泣き崩れた八幡を前に、僕はひどく絶望的な気分になっていた。…人は殺したけど、自分の罪にずっと怯えていた烏崎のほうがまだマシだ。
…せめて、柚木が助かる方法はないかと考えたけれど、何も思いつかなかった。考えれば考えるほど、頭の中を黒いもやが満たした。口が渇いて、頭上が渦巻いた。…この状態になってしまったら、もうこれ以上何も考えられない。手詰まりだ。…せめて、柚木が殺される前に僕を殺して欲しい。目の前で柚木が喉を切り裂かれて…死んでいく姿なんて見たくない。紺野さんにそう言おうと思って目を上げた瞬間、

紺野さんの携帯が鳴った。

「……芹沢か!」
紺野さんの顔に、生気が戻った。伊佐木の目が、すっと細まる。
「誰が、携帯に出ていいと、言ったんだね」
「…芹沢から連絡が入ったってことは、状況が変わったんだよ。あんたが今やってること自体、全部無意味になるかもしれない」
「…出るといい。関係のない電話なら、この子が死ぬだけ、だよ」
「てめぇ…!!」
「出て。誰かと天秤にかけられて死ぬより、ずっとましだわ」
柚木が気丈に微笑をうかべた。ためらっていた紺野さんは、僕と携帯を見比べるような素振りをして、やがて震える指で着信のボタンを押した。…しばらく携帯に耳を傾けていたが、やがてゆっくりと視線を上げると、伊佐木に歩み寄って携帯を差し出した。
「…何の、真似かな?」
「芹沢からだ。…取らないのか、用心深いな」
携帯の設定をスピーカーに切り替え、胸の位置に差し上げた。やがて、携帯から朗々とした声が聞こえてきた。…思わず、伊佐木を振り返った。

『知らなかったんだよ、君達がそんな大変な思いをしているなんて。こんな会議を設ける前に、なぜ私に一言相談してくれなかったんだい』

伊佐木の笑顔が、笑い皺一本崩れないまま青ざめた。その声に続くように、『俺はっ…!』という声が聞こえた。まぎれもなく、紺野さんの声だった。その後、伊佐木の一方的な演説が始まり、それが終わりかけた頃、決定的な台詞が、携帯から流れた。

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『…逼迫しているわが社において、クリスマス商戦は無視できないところです。…それで、どうでしょう?私に一つ、案があるのですが…』

「…でかしたぞ、芹沢!」
携帯の向うで、ひゃはひゃはひゃはと気が抜けたような笑い声が聞こえた。
『アメリカのセクハラ裁判で実際に使われたテだよ。ものにもよるが、パソコンには集音機能がついていることがあ
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