プロローグ
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ガシッ!
到達しようとしたところで、風のような速さで後ろに回されたリーラの手が老人の手首をがっしり押さえた。
そのままギリギリと細い指に力を込めていく。
「やっと……やっと、逢える……」
「ま、まあ、その、なんだ。きき気に入ってもらえたようで、何より――イタタタタ! り、リーラ! 少し強くないかね……っ!?」
「なにを仰いますか。女の細腕にそのようなものがあろうはずがありません」
「し、しかしだね! ほ、骨が軋んでいるのだがァ――!」
「気のせいでございましょう。悪い癖をお持ちの方は得てしてそう思い込むのです」
涼しげに答えるリーラだがその言葉とは裏腹に、握り潰さんと言わんばかりに手に込められる力は増していく。
老人は自由の四肢をベッドの上でばたつかせた。
「それで、お話を戻しますが、この方は?」
「う、うむ……けっ、継承の義を行うためには……こちらに来てもらわねばならん……っ、東京、支部によると、ちち近々旅に出るようで、こちらに向かうそうだ……っ、きっとお前たちにふさわしくゥゥゥ……」
「そんな、お一人で旅だなんて危険です……!」
顔色を変えて言い寄るリーラに、脂汗を額に滲ませた老人は宥めようと言葉を続ける。
「だ、大丈夫だ……か、彼は何でも屋を営んでいて、うう裏の世界では、名の知れた人なのだよ……! リ、リーラ! いい加減、離してくれ……!」
リーラは無表情で手首を軽く捻ってから指の力を抜く。
ポキッと軽い音とともに、アーッ! っと悲鳴を上げた老人は解放された手首を擦る。
「おー痛たた……リーラも聞いたことがあるだろう? 無慈悲の死神の名を」
「無慈悲の死神……敵対した者は必ず半殺し。狙われたら最期、彼の者に慈悲の心なし……。まさか、この方があの――」
リーラはもう一度写真に目を向けた。
そこには男子指定の制服を着た学生が写っている。
――何故か、ガスマスクを着けて。
「しかし、なぜガスマスクをつけていらっしゃるのでしょう」
「うむ、それについては現在調査中だ。彼は常日頃からマスクを被っており、その素顔を見たものは誰もいないらしい」
「そうですか……」
リーラはジッと写真を見つめる。
鉄の女と呼ばれた彼女の目元は薄らと朱に染まっており、それは誰が見ても思い人を待ち焦がれる乙女のソレだった。
リーラの反応を目にした老人は満足げに頷き胸中で呟く。
やはり、リーラたちを託せる者はこの男しかいない、と。
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