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フィデリオ
第二幕その二
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第二幕その二

「これからはスコップを使うぞ」
「はい」
「まだ時間はかかりそうだがな。それでも所長が来られるのはもうすぐだ」
「えらく急いでおられるのですね。何故でしょう」
「さてな」
 彼はそれに答えながら腰にある水筒を取り出した。そしてその中にある酒を飲んだ。ブランデーである。
 身体があったまった。それを実感しながら彼はフィデリオに対して言った。
「どうやら所長にとっては重要な者らしいが」
「所長にとって」
「ああ。詳しい理由はわからんがな。何でも政治犯らしい」
「そうですか」
 彼はそれを聞きながら囚人を見た。まだ眠っているのかうなだれて座り込んだままである。それを見ながら考えていた。
(似ている)
 知っている者に似ていると気付いた。
(本当にあの人なのかも。だとしたら)
「お、起きたな」
 ロッコは彼が動いたのを見てそう言った。
「おい、生きているか?」
「?私は今音を聞いているのか」
「ああ。どうだ、久し振りにここに来たんだが」
 ロッコは彼に声をかけた。フィデリオはその時囚人の声を聞いた。
(この声は)
「生きてるか?話しているところを見ると生きているようだが」
「何とかな。だがもう死んでいるのも同じだ」
(間違いない)
 フィデリオはそれを聞いて確信した。
(あの人だ)
「ここにいる間に何もかもを忘れてしまったようだ。ここは何処だったかな」
「セヴィーリアだよ」
 ロッコはそう答えた。
「そうか。そこの牢獄か。所長は?確かドン=ケツァルだったと思うが」
「代わったよ。今はドン=ピツァロ様だ」
「ピツァロ」
 囚人はそれを聞いて声をあげた。
「ドン=ピツァロか。警察にいた」
「ああ。それがどうしたんだい?」
「貴方に伝えて欲しいことがあるのだ。お願いできるか」
「わしにできることなら。何だい?」
「レオノーレ=フロレスタンという者がセヴィーリアにいる」
(その名は!)
 フィデリオはその名を聞いて興奮した。だが囚人とロッコはそれには気付かない。
「彼女に伝えて欲しいのだ。私はここに無実の罪で捕われていると。頼めるだろうか」
「無実かどうかまではわからないがわかったよ」
「済まない」
 彼はそれを聞いて礼を述べた。
「そこにいる若い人にも」
「はい」
 彼は顔を隠すようにしてそれに頷いた。
「お願いしたのだが」
「わかりました。必ずや」
(今受け取ったわ)
 心の中でも頷いたのであった。ロッコがまた言った。
「申し訳ありませんが私達ができるのはこれだけです」
 そう言ってパンを差し出した。
「少ないですがどうぞ」
「有り難う」
 彼はそれを受け取った。そしてゆっくりと食べはじめた。
「美味いですか?」
「ええ」
「それ
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