立志の章
第3話 「正直に言おう。手に負えん」
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が……目覚めることはないのか?
それともいつか目覚めるのか?
それすらもわからないままいつ果てるともしれない眠りの中にいる一刀に、俺は言いようのない虚無感に襲われていた……
「正直、俺の五斗米道では手に負えない……すまない」
「いや、貴方が無理ならばおそらくこの国では誰でも無理だろう……手間をかけさせた。礼金はさせてくれ」
「そんなものはいらない! 仮にも俺は医者だ。救うべき人を救うのに代金なんか受け取れん! しかも俺は助けることができなかった。それなのにどうして受け取ることができようか……」
……彼はまさしく『仁』のある医者だった。
向こうの世界ならこんな医師は、世界中探してもいないかもしれない。
「俺もまだまだ修行不足だ……もし、何らかの手段がわかったら必ず連絡する。君達はしばらくこの街に留まるのか?」
「……ああ、そのつもりだ」
「わかった。俺も仲間の情報を集めて、何とかこの症状の原因を突き止めてみる。だからあんたも諦めないでくれ、頼む!」
「……もちろんだ。こいつはかけがえのない、俺の家族なんだ……」
華佗はそのまま宿の外へ駆け出していった。
俺はいまだ一刀の傍で座り込んでいる。
「……盾二、さん」
「……桃香、か」
華佗が出て行ってしばらくした頃、桃香がおずおずと部屋に入ってきた。
たぶん部屋の外で、入るかどうか迷っていたのだろう。
「……元気だして。まだ目覚めないって決まったわけじゃないよ」
「ああ……そうだな。俺は諦めない。こいつは絶対に目覚める。いや、目覚めさせてみせる……」
そうさ。目覚めさせて……みせる!
「桃香、一刀のためにここまで手を尽くしてくれたこと、本当に感謝する。この恩は、終生忘れない」
「そ、そんなに気にしないでよ……前にも言ったけど、困っている人を助けるのは当然だよ。だって、私達はそのために旅をしていたんだもん」
……本当に、なんと『仁』にあふれる人だろうか。
アーカムに所属して以来……いや、十八年間生きてきて、こんな仁のある人間とであったのは初めてだ。
(歴史に名を残す史上最高の仁君……そういっても過言じゃないかもしれない。史実にも正しく後世に伝わった例なのだろうな)
見ず知らず、しかも出会ったばかりの胡散臭い俺や一刀に親身に接し、その為に労を惜しまず、代償すら求めない。
「……桃香。いや、劉備玄徳殿」
「ふぇ? は、はい?」
「私は、北郷盾二。貴方の恩義、我が兄である一刀と共に、終生忘れはしません。私にできることがあれば、なんなりとおっしゃってください。必ず、貴方の恩義に報いて見せます」
俺は膝を床に着け、胸の前で手の平と拳を合わせて頭を下げる。
確か、中国式の『揖礼』はこうだ
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