立志の章
第3話 「正直に言おう。手に負えん」
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幸いにも医者はすぐに見つかった。
なんでも華佗というらしい。
……たしか三国志でそんな医者がいたような気がする。
俺が知っているぐらいだから有名なのだろう。
すぐにもその華佗の宿泊している宿へと足を運び、事情を話して一刀のいる宿へと連れて来た。
「外傷は……特に無いな。血の巡りも問題ない。氣の巡りも普通に流れている……なのに目が覚めない、か」
華佗は若い男だった。
見た目は俺と同じか年上ぐらいだろうか?
赤い髪にどこか特徴のある声。
「頭の芯に氣が行き渡ってない……にしては氣が淀んでいない。むしろ正常に流れている」
一刀の診察をするためにAMスーツを脱がし、上半身裸の状態だ。
鍛えた身体はあの時、首が喰われ命を失ったとは思えないほど瑞々しい肉体となっている。
「まるで春眠の眠りのように安定している……であるのに目が覚めない。いや、これは……」
華佗は一刀の額に手を当てながら目を閉じ、必死に何かを探るように眉間にしわを寄せている。
「………………」
「……どうなんだ、先生?」
俺は華佗に尋ねる。
まさかこのまま目覚めないんじゃ……。
「正直に言おう。手に負えん」
華佗の一言が――俺を絶望の淵に突き落とした。
「そ、そんな……」
「手に負えん、というか……手を出すべきではない、といったほうがいいかもしれない」
……? 手を、出すべきではない?
「どういう、ことだ?」
「悪い場所がまったく見当たらないんだ。むしろ健常者よりも非常に健康体に見える。確か、目を覚まさなくなって四日は経っていると言っていたな?」
「あ、ああ……正直、俺も意識を失っていたので定かではないが、少なくとも四日は経っている」
「にもかかわらず、彼の身体は……まったく衰弱していないんだ。いくらなんでもおかしい。その間、何も摂取していないのだろう?」
「………………」
そういえばそうだ……一刀は目覚めない。
だから点滴もないこの世界では、輸液すら摂取していない。
そりゃ道中で多少、水を飲ませはしたが……。
「身体の瑞々しさは、水分不足とも思えない。四日ほどじゃ断言できないが、衰弱している様子もない。まるで健康体そのものなんだ。こんな症状、初めてだ……」
「……一刀」
どういうことだ?
確かに一刀は……一度死んだ。
死んでこっちの世界で生き返った……生き返ったはずだ。
息もある、鼓動もある。
なのに……意識だけが戻らない。
「まるで冬眠しているような……目覚めるべき刻を待っているような……すまん。なんと言っていいかわからん」
「いえ……」
俺はなんとも言えなかった。
一刀は生きている。
生きている
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