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久遠の神話
第四十話 同盟結成その十五

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「一面では正しいけれど」
「もう一面ではですか」
「そうなんだ。実際に善人が罪を犯すこともあればね」
「悪人がいいことをすることもですか」
「あるよ。ヒトラーだっていいことをしてるよ」
 稀代の独裁者であるこの人物もだった。
「あれでもね」
「そうなんですか。ヒトラーも」
「ドイツの経済を立て直してるし」
 ヒトラーの功績だ。まずはそれがあった。
「失業者に仕事を与え誇りを取り戻したよ」
「それはいいことでか」
「勿論だよ。仕事があれば食べられるんだよ。経済も立て直って生活も楽になったしね」
 それに加えてだった。
「アウトバーンを築いて交通の便もよくして」
「あのドイツ中を走る国道ですね」
「後はフォルクスワーゲンだけれど」
「丸い車ですよね。小さくて」
「あれのデザインも下らしいしね」
「あの丸い車ですよね」
「うん、あれだよ」
 その車のことは上城も知っていた。何しろあまりにも有名な車だからだ。名前を言われればすぐに思い出すものだった。
「あの車のデザインもね」
「そうだったんですか」
「少なくとも。最後は破滅したにしてもね」
「ヒトラーはいいこともしたんですね」
「そう。彼にしてもね」
「そういうものなんですか」
「確かに中には北朝鮮の将軍様みたいなのもいるけれど」
 見事なまでに己の私利私欲だけで動く腐敗しきった独裁者も確かにいる。世襲の共産主義自体が有り得ない筈なのにだ。
「けれどそれでもね」
「悪人もいいことをして」
「善人が悪いことをすることもあるよ」
「そういえばですけれど」
 悪人ではないがだ。上城は彼のことを思い出して話に出した。
「中田さんも悪い人じゃないです」
「炎を使う彼だね」
「はい、とてもいい人です」
 そのことは実によくわかる上城だった。
「気さくで明るくて面倒見がよくて」
「それでもだね」
「はい、戦うって仰ってます」
「他の剣士を倒してもだよね」
「いつもそう仰ってます」
 それ故に上城と戦ったこともあるのだ。親しい彼ともだ。
「戦うことはよくないですけれど」
「それでも悪人じゃないね」
「はい、とても」
 そうだというのだ。高橋に対して。
「そういうことなんでしょうか」
「まあ広い範囲で言えば正解かな」
「そうなんですか」
「うん、そうだよ」
 こう話すのだった。
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