第七章 銀の降臨祭
幕間 傷跡 弍
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にしないことをしたのだ。
行き倒れに手を差し伸べるという……馬鹿なことを。
地平線に沈みそうになっているにもかかわらず、遮るものがない日光は、しぶとく砂漠の上に立つ影をじりじりと焼き殺そうとする。
砂色のフードを頭から被った影の背は、百五十センチにも満たないだろう。フードの上からでも分かるほど細っそりとした線から、影が女であることがわかる。
「おい……死んでるか?」
「……っ……ぁ……」
ギリギリと照りつけてくる太陽を背に、影は足元に倒れる男に声を掛けた。
声は高く、明らかに男ではない。
フードを被った女の足元の砂上に転がる男の赤錆色の髪と黒いコートは、吹き付ける砂埃等で薄汚れている。
蹴りつけ男を仰向けに転がすと、そこには思ったより整った顔があった。爪先でごんごんと蹴りつけながら、女は男に声をかけ続ける。
「ふん……死んではないのか。おい、何か欲しいものあるか? 今なら格安で売ってやってもいいぞ」
「……ぅ」
「あん?」
「み……ず……」
カサカサに乾いた唇を動かし、男が水を要求してくると、女は背中に背負った使い古したバックの中から水筒を取り出す。女は水筒の蓋を開けると逆さまにする。
「っ……ん……ぁ……」
どぼどぼと落ちてくる水を、男は口を開け受け止める。あっと言う間に水がなくなった水筒を、女は放り捨てると、男に背中を向け歩き始めた。
「……ね……は?」
「あれ? もう動けんの?」
背後から聞こえてきた声に足を止めた女は、振り返りながら意外そうな表情を浮かべた顔を男に向けた。驚いたことに、男はよろめきながらも立ち上がっている。
「何だ? まだ何か欲しいのか?」
「か、ね」
「あん? おいおいそんな状態で追い剥ぎかい? 気骨があるねぇって言いたいが……馬鹿かお前?」
懐から銃を取り出した女は、銃身を男に向ける。
「勿体無かったな」
男の命ではなく、男に恵んでやった水のことを惜しみながら女が引こうとした引き金は、
「いく、らだ?」
「は?」
男の言葉によって止められた。
「何言ってんだお前?」
「っ……はぁ〜……売ってもらった水はいくらだ。実は少々懐具合が寂しくて……それを考慮して欲しいだが……」
「……っは」
飲み込んだ水が身体に回ってきたのか、大分滑らかになった口調で、男が何処か情けない表情でぼそぼそと呟く。女は男のその様子を見て、
「っあははっはははっははははっ!!」
爆笑した。
腹を抱え、遂に立っていられなくなったのか、女は砂の上を転がりながら笑い続ける。
男は目をまん丸にしながら、女のそんな姿を見下ろしていた。
「っ
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