反転した世界にて1
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いんだ……」
――欲情していた女性の顔を思い出す。
細く繊細そうな指先が全身を貪るように撫で回していた感触と、背中に押し潰れんばかり押し付けられていた乳房の柔らかさも、鮮明に残っていた。
「……」
興奮した。
今になって思うと、やっぱりご褒美だったかもしれない。
「おーい、拓郎」
聞き覚えのある声がしたと思うと、その声の主は小走りで僕の方に近づいてきた。
「……荒井くん、おはよう。――イ、イメチェン?」
大きな声を出さなかった僕を褒めてほしい。
この時間に荒井くんとエンカウントすること。これ自体は別に珍しくもなんともないことだ。昨日も会ったし。
しかし、その荒井くんが眼鏡をかけずに登校してくるというのは、僕の高校生活史上初めてのことだった。
しかししかし、その程度のことでは僕もここまで驚きはしない。
「あ、わかる? イメチェンってほどでもないけど ちょっと毛先を揃えてきたんだ」
「ちょっと毛先とかそういうレベルじゃない気がするけど」
何の冗談か、荒井くんは髪型をツインテールにして登校してきやがったのだ。頭の両側面にぶら下がる髪束を指先で弄る荒井くん。男子にしては長めで細くて女みたいな髪質だなと思っていた(僕も人のことは言えない)けれど、髪型までそれに合わせることはないんじゃなかろうか。
それともツッコミ待ちなのか? だとしたら、ちょっと振りが高度すぎて対応できない。
「そういう拓郎は、こういうの無頓着だよな。お前も一端のボーイなんだからもうちょっと気にした方がいいぜ」
「……荒井くんがそういうならそうなのかもね」
荒井くんの、ある意味堂々とした態度。
あまり深くは聞くなっていうことかもしれない。罰ゲームか何かか、突っ込んだ質問をして逆鱗に触れられても困るので、そっとしておくことにする。
「それより、今朝はどうしたんだよ? すごいスピードで走ってる男子がいるなと思ったら、拓郎だったから。慌てて追いかけたぜ」
「あ、うん。……ちょっとね」
まさか、痴漢されたなどと言えるはずもない。
信じてもらえるはずはないし、よしんば信じられたとしても、何のメリットもない。不名誉極まりないだけだ。同情されたって嬉しくもなんともないし。
ここは適当にごまかすことにする。
「可愛い猫がいたから、追いかけてたんだ」
「そ、そうか。随分と必死な顔で追いかけてたもんだ……。猫も災難だな」
訝しげにしながらも、これ以上は追求せずに並んで歩き出す。
「……」
「……お」
すると、荒井くんがなにかを発見。
進行方向より十二時の方向。
男子の一団――いつも荒井くんとつるんでいるグループが、こちらに向かって手を振っている。
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