プロローグ
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り返る。
六限の授業は、真面目に大人しく受けていればなんのことはない。
先生に当てられて、教科書を朗読をしているだけなのに、なぜか失笑が聴こえてきたくらいだ。
それよりも昼休みだ。お弁当を持ってこなかったのは失敗だった。大失敗だった。
以前に学食を利用したのは、去年のこと。
まだ交友関係が定まっていなかったらしい荒井くんに誘われて、金魚の糞の如く付いていったのだ。そして曲がりなりにも二人で昼食を共にしたのだった。
あれ以来、こっちから誘うこともなく、向こうから誘われることもまたあり得なかったので、学食を使うのはこれで二度目になるのだけれど。
一人で利用する学食のテーブルが、あんなにも肩身の狭いものだとは想像だにしなかった。
――男子三人組が僕の右隣に一人と、正面に二人。
僕を囲うようにして、その上で僕から気持ち距離を離すようにして座って、わいわいがやがやと楽しそうに雑談しながら昼食を取っていた。
おそらく同じ部活の仲間なのだろう、一人だけ敬語で話していたので先輩後輩の仲なのかな。なんてことが、簡単に聞き取れてしまうくらいに近い距離。
他意も悪意ないのはわかっている。男子三人組は僕のことなど、文字通り空気ほどにも気にしてはいなかっただろう。
それでも、その時の緊張と気まずさは、これはぼっちの僕にしかわからないに違いない。
昼食の味なんか覚えていない。何を頼んだのかも忘れてしまった。
もう二度と学食は使わない。お弁当を忘れるくらいなら、遅刻してやる。
――そう心に決めていると、チャイムが鳴った。
今日は寄り道せずにさっさと帰ろう。
日直が号令。
終業と同時に教室を出ると、急いでいるクラスメイトたちと肩がぶつかったりして嫌な顔をされることがある。
人の出入りがまばらになった頃合いを見計らってから、僕は静かに席を立った。
◇
帰りも電車で。朝のラッシュほどではないけれど、やはり学校や会社帰りの人が多くて込み合っている。
やっぱり、自分のパーソナルスペース内に他人がいるというのは落ち着かない。
それに朝とはまた違って、帰りのラッシュ時特有の汗臭さというか野郎臭というか。ともかく電車内はじっくりと熟成された臭いが充満していて、至って不快だ。
「――、――!!」
――と、何やら近くで女性のヒステリックな叫び声が聞こえた。
周りの人々同様、首をひねって声の聞こえた方向を見ると、
「――間違いなく触ってたわ! この手が、この手が!!」
「誤解だ!」
痴姦をされたのしてないだの。スーツ姿の美人さん、歳は二十台中頃くらいだろうか。
端整な相貌を怒り一色に染め上げて、仕事帰りのOL風な美人さんはキーキーと怒鳴り声を上げていた。
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