第百十九話 一枚岩その八
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「いや、それはまことに恐縮しました」
「ですか。それでは」
「たまのことですか」
「はい、熊千代との縁談ですが」
「殿はたまを見る度に褒めておられます」
明智の愛娘である彼女をだというのだ。
「これは必ず絶世の美女になると」
「そこまで、ですか」
「かといって己の側室にはせぬと」
帰蝶を見てもわかる通り信長とて美女は嫌いではない、だがそれでも美女を囲うこともしないのが彼である。
「そう仰っていますので」
「そこは殿らしいですな」
「是非そちらの熊千代殿の嫁にせよと」
「殿自ら仰っていますか」
「そして他にも娘はいますが」
明智の娘はたまだけではない、他にもいるのだ。
「勘十郎様のご子息にと」
「信澄様ですな」
「まだご幼少ですが大層利発な方なので」
明智にとっても悪い縁談ではない、それでだった。
「このことも有り難いと思っています」
「織田家の方ともですか」
「はい、殿から言われています」
「殿御自らですか」
「左様です」
「それは凄いことですな」
細川もこのことには唖然となる、何しろ明智は外様どころではない、その本籍は幕臣であり織田家ではないのだ。
だがそれでも信長が自ら縁談を言ってきたのだ、これは細川でなくとも驚く話だ。
「それだけ目をかけてもらっているのですな」
「それがしも信じられません」
「明智殿ご自身もですな」
「はい。娘達も喜んでいるでしょう」
いい縁談が来てだというのだ。
「非常に有り難いです。それに」
「まだありますか」
「殿はそれがしに茶会を開くことも許されるとか」
「茶会といえば」
「今は殿しか開けませんが」
それがだというのだ。
「殿が直々に茶会を開くことを許された重臣の方々にもということですが」
「それに明智殿もですか」
「まずご親族の勘十郎様に」
一門筆頭であり信長の補佐役でもある彼が最初だった。
「平手殿に柴田殿」
「林殿と佐久間殿ですな」
「はい、そうです」
四人の宿老達も当然だった。
「そこに丹羽殿、滝川殿、長曾我部殿に」
「あとは羽柴殿でしょうか」
察しのいい細川は彼の名前もすぐに出した。
「あの方ですな」
「はい、そうです」
「あの御仁も凄いですからな」
「傑物ですな、あの方は」
「一見小柄で弱い感じですが」
実際に個人の武芸は大したことがない、それに読み書きも下手だ。
だが羽柴にはそれを補う機転と人たらしの才能がある、それを発揮してのことなのだ。
「あの方の才覚は天下に轟くものかと」
「そう思います。あの方ならば」
明智も言う。
「その資格があります」
「織田家の重臣に名を連ねるだけの」
「そう思います。それにしても」
ここであることに気付いた明智だった、そのこ
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