第百十九話 一枚岩その七
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「余からの贈りものが加わるのじゃ」
「では織田殿にはそれがしからお話しておきます」
「頼むぞ、それではな」
義昭は将軍としての余裕と誇りを持ってはいた、だがそれが何によってなっているかまでは考えていなかった、その彼を見てだった。
細川は義昭の前を退いてから己の屋敷でこう明智に漏らしたのだった。
「熊千代を織田家に入れてよかったやも知れませぬな」
「ご子息をですか」
「はい、幕府ではなく」
織田家に入れた、それがだというのだ。
「そうしてよかったやも知れませぬな」
「実はそれがしもです」
明智もここで言う。
「親族を織田家に入れようと考えています」
「明智殿もですか」
「そう考えています。それに」
「それにとは」
「今斉藤利三という者を安藤殿から紹介されています」
美濃において切れ者と言われている者の一人だ、安藤の縁者の一人である。
「その者は織田家にいますので」
「織田家の者の家臣を入れられますか」
「幕府からの禄は五百石もありません」
今の幕府ではそれが限度だ。
「しかし織田家は十万石以上です」
「それがしも万石取りですしな」
細川も幕府では三百石もない、だが織田家では三万石だ。
万石取りなぞ彼等にとっては最初聞いた時は夢かと思えることだった、それは細川だけでなく明智も同じだ。
それで明智もこう言うのだ。
「十万石、そこから家臣を雇いたいと考えています」
「即ち織田家の家臣をですか」
「はい、そう考えています」
明智はこう細川に話す。
「そしてその中にです」
「ご親族の方々を入れられますな」
「そう考えています」
織田家から出ている禄の中ですることだというのだ。
「そうした意味でそれがしも」
「織田家の家臣になられていますな」
「信長様は素晴らしい方です」
明智は信長の巨大な資質に敬愛さえ抱いていた、それでこう言うのである。
「まさに日輪です」
「ですな、あの方は」
「はい、日輪です」
それに他ならないというのだ。
「天下を照らす日輪です」
「曇りがありませんからな、あの方は」
「しかも一点も」
「やはり日輪ですな」
その曇りのないところがだというのだ、細川も言う。
「そう考えますと」
「母上も喜んでいます」
明智が糟糠の妻と共に大事にしている母もだというのだ。
「それがしが信長様に十万石取りの大名にして頂いたことを」
「ご母堂もですな」
「親孝行ができています」
明智はこのことを素直に喜んでいた、だがここでこの様なことも言った。
「ですが丹波の波多野殿を取り入れる時に母上を人質に差し出そうとしたことはこの前叱られました」
「そのことをですか」
「はい、母親を粗末にしてはならぬと」
そう信長に言われたので
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