Episode 2 狼男の幸せな晩餐
チョコレートペイン
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力を使えば一瞬で出来てしまうため、その調理速度は恐ろしく速い。
「さてと、出汁がしみこむまでしばらく待つか」
布の中から豆腐を取り出すと、蟹の匂いの漂うスープの中にそっと流し込んだ。
間違っても沸騰させてはいけない。
湯豆腐は火加減が肝要なのだ。
「んー ノルベルトさんの舌に合わせるならもうちょっとかかるな。 先に夜食食べるか」
蟹のグラチネの温度を、サーモグラフィーのような感覚器で計測すると、キシリアは先に出来上がってしまった湯豆腐を食べるべくレンゲを取り出した。
そしてその白い物体にレンゲを差し入れた瞬間……
プルルルル……プルルル……
ふと、こんな真夜中に鳴り出した通信機に首をかしげる。
いくら夜行性の多い魔族とはいえ、こんな時間に昼行性の種族のところに通信を送ることは珍しい。
いや、こんな魔族の社会だからこそ、相手に連絡をかけると気は時間帯を気にするものだ。
――いったい誰から?
いぶかしく思いながら通信機のスイッチを入れると、激しい息遣いと共に流れてきたのは年配の男の声だった。
「……キシリアか……今すぐ……逃げろ! ノルベルトのヤツが……」
通信機の向こうの声は、老舗鮮魚卸問屋ツィフラーシュ商会の会長、つまりノルベルトの父親の声。
――なぜに?
「その声はツィフラーシュのおじさまですか? ノルベルトさんなら、さっき蟹を持ってきてくれましたよ?」
「……!?」
キシリアが何気なくもらしたその台詞だが、通信機の向こうから大きく息を飲みこむ音が返ってきた。
――判らない。
ただ、ただ事ではなさそうな雰囲気は先ほどからひしひしと感じ取れる。
「いまかぐ逃げるんだ! いいか、やつは今……」
その台詞が不意に途切れた。
「え? おじさま? どうしたんですか!?」
ただならぬ気配にふと通信機の親機を見ると、魔力を供給する元線がプッツリと切れてぶら下がっている。
――いったい誰が?
「……えっ?」
答えが出るよりも早く、今度はキシリアの背中にフサフサと毛の生えた暖かいものが覆いかぶさってきた。
そしてその柔らかなものは一瞬にして硬く変質し、とんでもない力でキシリアの体を締め付け始めた。
――こ、殺される!?
「くっ……あっ……」
苦しさのあまりキシリアの口から苦悶がこぼれ、わき腹がミシミシと嫌な音を立てる。
――い、嫌だ! まだ死にたくない!!
そう心の中で叫んだ時だった。
「ごめん。 痛くする気はなかったんだ」
その声と同時に、キシリアの体を締め上げる力が僅かに緩む。
――誰?
胸の下に回された太い腕に手を押しのけようともがきながら、声の主を確かめるべくぎこちない動きで首を後ろに向け
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