Episode 2 狼男の幸せな晩餐
チョコレートペイン
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、こんなろくでもない気分に浸ってる場合じゃないな。 そろそろ焼きあがったようだし」
思い出してしまった過去の古傷に心奪われても、その鼻はグラチネがちょうどよく焼き上がった匂いを敏感に嗅ぎつける。
これはもう、料理人としての性なのだろう。
ちなみに、表面が小麦色から少し茶色になりかけた頃が自分なりのベストな焼き加減だ。
花柄のキュートなミトンをしっかりと手にはめると、キシリアは手を近づけるとチリチリと焼け付くような温度のオーブンを開き、まるで砂の中から宝石をつかみ出すような慎重さで蟹の殻を取り出した。
胃袋を刺激する焼けたチーズの香りに、磯の香りを思いださせる蟹の匂いが濃密に混ざる。
手元ではスープにするよりなおも濃厚な蟹のエキスが、熱されたペシャメールソースと共にグツグツと泡を立てていた。
「さすがにコレをそのままもって行くわけにはいかないな」
人間が食べても口の中を火傷しかねない食べ物なのだ。
猫舌ならぬ犬舌のノルベルトにはしばらく冷ましてからもってゆく必要があるだろう。
……それにしてもいい匂いだ。
そう思った瞬間、お腹の虫がグゥゥゥゥと自己主張を開始した。
とっくに晩御飯は食べた後なのだが、この匂いの中では空腹を覚えるのもやむをえない。
「よし、お夜食作っちゃお」
そうと決まれば行動は早い。
キッチンの戸棚から乾燥した豆の袋を取り出すと、目分量で測ってボウルに入れる。
「……粉挽き!」
簡単な詠唱で理力の粉挽きを発動ざると、周囲には味も匂いも濃厚な黄粉が出来上がった。
そこに水を注ぎいれると、今度は目の細かい布を広げる。
「つづいて、抽出!」
続いて水で溶いた黄粉に向かって理力を振るうと、豆の中の成分が水に溶けて真っ白に濁る。
これを漉せば豆乳の出来上がりだ。
「さーて、豆腐を作るのは久しぶりだな」
白い粉と豆乳を鍋に入れて加熱すると、キシリアは鼻歌を歌いながらそれをかき混ぜ始めた。
ちなみに白い粉は"にがり"ではなく、卵の殻を酢につけたものをベースに調合した"にがり"の代用品である。
内陸部であるビェンスノゥでは、海の製品は手に入りにくいのだ。
そして作るのは基本である木綿豆腐ではなく、おぼろ豆腐。
湯豆腐にするならば、この触れればそのまま溶けてしまいそうなほどに柔らかな豆腐のほうが好みなのである。
「……圧搾」
そして沸騰する前に加熱を止めると、キシリアは鍋の中身を再び布で漉し取り、漉しとった後の汁の入った鍋に刻んだ森髭と蟹殻の出汁を乾燥させた粉末をいれて再び熱を加え始めた。
ちなみにここまでの所要時間、僅か2分。
加熱も材料の取り出しも理
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