参ノ巻
文櫃
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あ、ご、ごめん」
そしてあたしを見てひとりで狼狽えて出て行こうとする。
「何が。あたしに用があるんじゃないの」
あたしは怒りが収まらずむくれてそっぽを向きながら言った。
「いやでもええともう少ししたらまた来るよ」
「なんでよ。今言いなさいよ。というか、あんた・・・!」
あたしはずかずかと高彬に歩み寄った。
「うわっ!」
さがろうとする高彬の袖を素早く捕らえて詰め寄る。
「るっるっるっ瑠螺蔚さん!」
「あんた、なんで・・・」
由良に言うなっていったのに言ったのよ!
との言葉をあたしは寸前で呑み込んだ。
高彬はきっと、あたしのために由良に言ってくれたんだろう。なんだか約束を破られたような感じは拭えないけれど、あたしのためにしてくれたことをあたしが怒るのは、なんか申し訳ない気がしなくもない。
「ばか!」
「ええっ?いたっ!」
でもやっぱりなんだかむかつく!
あたしはいきなり高彬の鼻先すれすれに平手を繰り出した。
外したはずだけど、運悪く驚き避けた高彬の頬をあたしの爪が引っ掻く。
それはまるで、猫に引っかかれたような見事な二本線ができた。
「なにするんだ瑠螺蔚さんいきなり!」
「自分の胸に聞いてみれば!」
あたしはぷりぷりしながら一応高彬の頬の傷に自分の袖をあててやる。すると明らかに高彬があわあわと挙動不審になり始めた。
「るるるるるる・・・」
「は?なにいってんのあんた。大丈夫?」
「るっるるるる瑠螺蔚さん!」
「だから、なに」
「む、むね、むなもと!見えてるから!」
「え?きゃあっ!」
高彬に指摘されて初めて気がついたのだけれど、朝から色々なことがあったせいか胸元のあわせが盛大にずれていたのだ。あたしは恥ずかしさも相俟って、反射的に腕が伸びた。
速穂児、もしかして気づいてたの!?言い方が遠回しすぎて気づかないわ!てっきり寝起き姿だから・・・と思ってただけなのに!どうりで明後日ばっか見てる訳だわ!
そして結果として、高彬の頬の傷は三本に増えたのだった。
ご、ごめん・・・。
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