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戦国御伽草子
参ノ巻
文櫃

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界から消えたと見るや否や隣の(ふすま)をぶち開ける勢いで開いた。



速穂児(はやほこ)!」



「前田の姫がそんな格好で入ってくるな!」



「あたしの格好なんてどーでも良いのよ!あんた由良を追って!ほら今すぐよはやく急いで!」



「おまえ・・・」



「こっそりついていって、もし三浦が由良になにかしようとしたら守って。お願い」



 あたしは速穂児ににじり寄った。



「あたし散々脅したし、髷落としたし、あいつ、逆恨みしてもしかしたら由良になにかするかもしれない」



「なにやってるんだ・・・そういうことは俺がするから言え」



「そういう問題じゃないわよ。見たのも偶然なら斬ったのも勢いで・・・ってそう言う話じゃないってば」



「おまえは由良姫をひとりで行かせたんじゃないのか」



 速穂児は言った。



 やっぱり、盗み聞きしてたわね。隣だから仕方ないけど。



「それとこれとは話が別なの。ひとりで行かせたのは由良の気持ちを尊重しただけ。伴人だけじゃ心許ないでしょ。そいつがどれぐらい腕が立つか知れないし・・・由良は三浦と話す時伴人を遠ざけるかもしれない。その点隠密なら大丈夫!速穂児腕立つでしょ?三浦なんかには負けないでしょ。ねぇあんたも由良が心配じゃないの?そもそも倒れてるあんたを見つけたの由良よ?由良がいなかったらあんたはここにはいないのよ。恩人よ!恩人を助けるのは当然でしょ。あんたも男の端くれなら女は守って(しか)るべきものでしょう?ね?わかったらお願い!由良のこと守ってあげて」



 あたしは畳み掛けるように速穂児に詰め寄りながら(まく)し立てた。速穂児は嫌そうな顰めっ面で顔を背ける。



「・・・わかった。だから近寄るな」



「なっ!?」



 なんですってぇ〜!?



「じゃあはやくいきなさいよ!バカ!バカ速穂」



 花の乙女に向かって近寄るなはないでしょ近寄るなは!



 あたしはどこどこと余所を向いている速穂児をどついてから、鼻息も荒くどしどしと足踏みをしながら自分の室に戻ろうとした。その後ろから速穂児の声が飛ぶ。



「瑠螺蔚!いつまでもそんな格好をしているな」



「あんたはあたしの父上かっ!」



 振り向くともう速穂児はいなかった。



 なんなのもう!別にいーわよ寝起き姿見られたって!いーだ。



「瑠螺蔚さん、入るよ」



 間髪入れず声がして、返事も待たずに入ってきたのは高彬だった。




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