参ノ巻
文櫃
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「いいから、聞いて。もしも、そうなったとしても、あんたは別にあたしに悪いとか思わなくて良いわ。無理に心を偽る必要もない。あり得ないことじゃないでしょう。仲が良いとはいえ、この乱世。違う家に生まれた以上、前田家と、佐々家が敵同士になることだって、あんたの夫の首をあたしがとることだって、あるかもしれない。そしたら、あんたは迷わず佐々家や、自分の夫の味方するのよ。絶対に。あたしのことは考えなくていい。思う存分『前田瑠螺蔚』を恨んで、憎みなさい」
「瑠螺蔚さま・・・」
「ただ・・・ひとつだけ、忘れないで欲しいのは、あたしは由良のことが大好きってこと、それだけ。だからどんな事が起こっても、あたしが由良を嫌いになることは決してないし、いつでもあんたの『瑠螺蔚さま』は、あんたの味方よ。・・・酷いこと言って、泣かせちゃってごめんね」
「いいえ・・・いいえ・・・瑠螺蔚さま・・・」
由良は泣いた。押さえることなく、子供のように由良は泣いた。
うん。泣きなさい由良。素直に、泣きたいように泣けない時が、きっとくる。それはこの戦の世に産まれた女だったら避けられないこと。その涙を拭う袖も、こうして抱きしめてくれる腕もなく、荒れ狂う心を抱えたったひとりで前を睨み付けるしかない時がきっと。だから、せめて、今は・・・。
由良の背中を撫でながら考えた。
由良は、強い。
あたしは由良を背に庇うことしか考えていなかった。ちっちゃな由良。でもいつの間にか由良はあたしの後ろに隠れているだけじゃなくて、きちんと自分でものを見、考え、そして恋をし強くなった・・・。
恋、か・・・。
「瑠螺蔚さま、ありがとうございます。私、決心が鈍らないうちに行きますね」
「うん」
三浦のもとへいくという由良。きっと優しい由良は少なからず傷つくだろうけど、あたしは止めなかった。由良が向き合うと決めたものに、あたしが水を差しちゃいけない。それは由良を侮辱することだ。あたしができることは、由良が帰ってきた時に、おかえりと笑顔で迎えてあげること、それだけなのだ。真綿でくるんで大切にすることが、必ずしも由良のためになるとは限らない・・・。
「一人で行くの?」
「道々物騒ですので伴の者と共に」
「賢明ね。佐々の姫らしくなってきたじゃないの」
「ありがとうございます。瑠螺蔚さま」
「いってらっしゃい、由良」
由良は腫れぼったい目でそれでも恥ずかしそうに笑いながら部屋を出て行った。
あたしは優しく頷いて見送り、由良が視
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