外伝その三〜海鳴市・後編〜
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にはそれが心地よかった。
ライ「………」
しかしそれとは逆にライの表情は少し沈んでいた。
先ほどの試合いでライはいつも通りに戦った。状況を理解し、把握し、判断する。そして自分の中の最適解を導き出しそれを決行する。どのように相手を正確に“無力化”するか。その結果を掴むために一切の情を廃する。
それが求められる環境にいたライは自然とそうしてしまう。それが今のライには悲しく感じたのだ。
先ほどの試合で勝つ必要があったのか?
あの技を使う必要があったのか?
そして疑われるような行動をとる必要があったのか?
ライは先の試合で自分がいつものように戦えたことがいやだったのだ。平和なこの世界で自分が異物であることをより顕著に感じてしまったために。
自分の考えがネガティブなことばかり考え始めたことを自覚したライは湯船のお湯を両手で掬い、顔に叩きつけるようにかけた。
ライ「………よし!」
今の自分を肯定するようにそう言うライの表情は、先ほどよりも明るかった。だがやはりライの頭のどこかでは先ほどのことを気にしていた。
シグナムは今現在、脱衣所に向かっていた。それはある忘れ物をしたからである。
シグナムは風呂から出たあと、興奮を覚ますために高町家の庭に出ていた。そして涼んでいた途中で自分の髪が結ばれていないことに気づいた。
シグナム「………しまった…」
彼女は着替えに集中していなかったために服を着たあとに髪を結ぶことを忘れていたのだ。いつも使っている髪結いの紐を脱衣所においたことを思い出した彼女はその紐を取りに行く。
脱衣所に到着した彼女は迷わずその扉を開ける。そこには―――――
ライ「え?」
シグナム「は?」
着替え中のライの姿があった。幸いなのはライがズボンを履いていたことであろう。
シグナムは風呂に入ったあと、ライとは入れ違いになるように庭に出ていたためにライが入浴していたのを知らなかった。そのためこのようなことが起きるのは当然なことであった。
シグナム「すまん!」
一言そう言うとシグナムは即座に扉を閉めた。すぐに目を背けた彼女であったが、ライの上半身をしっかりと見ていた。
それから数秒後、着替えを終えたライは扉を開けて脱衣所から出てきた。
ライ「シグナムさん、どうかしましたか?」
シグナム「いや、その、髪を結うのを忘れてな。紐も中にある。」
シグナムはそう言って脱衣所の中を指差す。いつものように話すシグナムの頬は若干朱に染まっていたが、ライはそれに気づかずにその紐を取りシグナムに手渡す。
シグナム「すまんな。」
ライ「いえ、そんな…」
シグナム「それにさっきは申し訳ないことをした。」
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