第3章 肉の塔
[8]前話
悪魔たちに見せられている白日夢が止み、弓子はわれに帰った。だがそれは開放を意味するものではない。さらなる恐怖が彼女を襲おうとしていた。
エジプト十字架を男女・大人子供の群集が取り囲み、恍惚とした目で弓子を見つめて
いる。視力が半減していながら、はっきりと外界のイメージが脳裏のスクリーンに投影されていた。おそらくセトの仕業であろう。裸身と涙を見られた羞恥心が蘇り、彼女は叫んだ。
「イヤッ、こっちを見ないで・・・!」
しかし、群衆は弓子の叫びを無視するどころか、逆に服を脱ぎ、全裸になって迫ってくるではないか。その姿は鬼気迫るものがあった。彼らの
有様は十聖高校でロキに精神支配されたクラスメイト達に酷似していた。次に何が起こるか悟った弓子は、声を張り上げた。
「ダメっ! こっちへこないで、来ちゃダメよ!!」
しかし、群衆は進むのをやめずに、十字架を覆うセトのスライムに飲み込まれ、血飛沫を上げて押しつぶされ、骨や内臓をはみ出させて溶かされ、取り込まれていく。死んでいく彼らの表情は恍惚に満ちていた。
「イヤ―――っ!!」弓子は顔を背け叫んだ。
やがて、彼女の周囲は、赤黒く蠢く肉のドームに包み込まれていった・・・。
生臭い臭いが弓子の鼻に飛び込んでくる。
何処からか呼吸音とも心臓の鼓動とも取れる音が、肉の壁を震わせて、壁がぬめぬめと蠢いているのがどことなく卑猥でおぞましい。
彼女の身体はもう、スライムに覆われてはいなかった。しかし、依然としてその白く美しい肢体は両腕が十字架に結わえ付けられ、逃げることは叶わず、身じろぎしかできない。
「ここは・・・悪魔の体内だわ・・・」
(続く・・・)
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