第百十九話 一枚岩その六
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「信長には何か与えねばな」
「与えるといいますと」
「何をでしょうか」
幕臣達は義昭の今の言葉に戸惑った、何しろだ。
最早幕府には何もなく信長に支えられている状況だ、それでこう言うのだった。
「信長様、いえ織田殿に与えられるとは」
「一体何を」
「位じゃ。もう一度言ってみよう」
将軍として言うのだった。
「管領の位をじゃ」
「織田殿に与えられると」
「その位を」
「それと副将軍じゃ」
二つだった、与えるものは。
「二つならば文句はあるまい」
「ううむ、左様ですか」
「その二つをですか」
「織田殿に」
「何なら父と呼ぼうぞ」
義昭はさらに言う。
「何しろ予を支える第一の臣じゃからな」
「どうでしょうか、それは」
「如何なものかと」
今の言葉には周囲も呆れを見せて止めた。
「あの、上様は将軍です」
「将軍となれば武家の棟梁ですから」
だからだというのだ。
「それはお止めになられた方がよいかと」
「それがしもそう思います」
「ふむ、そうか」
義昭は彼等の表情にあるものに気付かず素っ気無く返した。
「では止めておこう」
「織田殿も恐縮されますし」
「それでよいかと」
「では何を贈ればよいのじゃ」
まだ将軍としての威厳は見せようとする。これは義昭を義昭たらしめているものなので当然のことである。
「一体」
「茶器で宜しいかと」
ここでこれを勧めたのは細川だった。
「それで」
「うむ、茶器か」
「織田殿は無類の茶器好きですので」
「予は茶器にはさして興味がないのじゃがな」
これは義昭の好みである。
「ではじゃ」
「はい、ではそれで」
「あと着物を贈ろうかのう」
それもだというのだ。
「絹のな」
「着物ですか」
「それじゃ。尊氏公の頃からのそれをな」
「ふむ、そうですな」
細川もその話を聞いてからこう返した。
「それはよいかと」
「御主もそう思うな」
「はい、あの絹のよいものですな」
「応仁の乱でも残ったものじゃ、あれをやろう」
「ではその様に」
「信長も多くの宝を持っておるそうじゃがな」
茶器だけでなく書や武具も多く集めている、絵もあり天下人である信長には実に多くの宝が集まっているのだ。
「よいことじゃ」
「そのことは構いませぬな」
「予は他の者が何を持っておっても羨むことはない」
義昭にはそれはない。
「だからじゃ。よいことじゃ」
「そう思って頂き何よりです」
「うむ、そこにじゃ」
義昭はさらに言う。
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