第百十九話 一枚岩その三
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「平安の頃でいなくなったわ」
「鬼も土蜘蛛も」
「過去のことじゃ」
あくまでそれに過ぎないというのだ、小西だけでなく古田もこう考えていた。
「頼光公に全て退けられたわ」
「そうなりましたな」
「今時おる筈がない」
「はい、最早古の話です」
「まだ土佐にはおるかのう」
ふとこうも言った古田だった。
「猿神だのが」
「いや、おらぬからな」
二人と共にいてこれまで沈黙を守っていた元親が答える。元親も最近茶道を学び身に着けてきているのだ。
「最早そうした者達は」
「おりませぬか」
古田は元親には長曾我部家の主である為それなりの敬意を払って述べた。
「お国にも」
「土佐でも最早古の者達じゃ」
四国の中で山と海に覆われ孤島の様になっているこの国ですらというのだ。
「猿には犬をぶつけて退治したわ」
「そうしましか」
「性質の悪い犬達も退けた」
「確かそれは」
「犬神じゃ」
神といっても祟り神だ、恐ろしい存在である。
「犬神もおらんようになった」
「それも昔のものになりましたか」
「土佐もこれから開ける、影の中に蠢く者達はおらんようになった」
「よいことですな」
「そう思う、本朝はこれから強い光で照らされるであろうな」
「殿ですな」
小西は二人に述べた。
「殿こそがですな」
「そうじゃろうな、あの方は日輪の様な方じゃ」
古田は信長についても言う。
「だからこそじゃ」
「日輪であるが故に」
「うむ、本朝の影はなくなっていく」
「よいことですな」
「わしもそう思う。影の中に何かがいる世は完全に終わる」
古田の今の言葉は極めてしっかりとしている。
「そして天下を導かれるであろうな」
「ははは、そうした方でなければじゃ」
どうかとだ。元親は大きく口を開けて笑って述べた。
「わしも降らぬな」
「そもそも元親殿は天下を目指されていたのですか?」
小西はふとかつての彼の望みについて尋ねた。
「それはどうなのですか?」
「まずは土佐の統一だった」
やはりこれが最初だった。
「それが果たせた、次はじゃ」
「四国ですな」
「讃岐も阿波も伊予も手に入れるつもりだった」
まさしくそう考えていたというのだ。
「上洛ももしやと思ったが」
「それについては」
「あまり考えておらんかった」
そうだったのだ、元親にとって上洛とはまだまだ先の途方もないことだったのだ、かつての彼はこう考えていた。
「四国を一つに出来ればと思っておったがな」
「しかし土佐を一つにしたところで」
「殿が来られてじゃ」
一戦交えて信長の器を見極めて降ったというのだ。
「今ここにおるわ」
「そういうことですな」
「それでよいと思っておる」
降ってそれでだというのだ。
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