第百十九話 一枚岩その二
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「とてもじゃが有り得ぬわ」
「そういうことですか」
「自分で自分の顔を殴ったのであろう」
「ううむ、そして鼻血を出して」
「それでじゃ」
また言う古田だった。
「あの鼻血はあえて出したものじゃ。あの怪我では茶に落ちるのも道理」
「そしてそれを佐吉があえて飲むのも」
「佐吉ならやる」
何故石田がそうするかというとだった。
「友に恥はかかさぬ男じゃ」
「ですか。しかし佐吉の鋭さなら」
小西は彼の鋭さを知っている、それで言うのだった。
「もう芝居ということに気付いているのでは」
「そうじゃな、あ奴はそうしたこともすぐに察する」
「はい、ですから」
「気付いておるが悪い気はせぬ筈じゃ」
「仕組まれていてもですか」
「うむ、そうは思わぬ」
決してだというのだ。
「これはあ奴のことを思ってのことだからじゃ」
「殿と桂松が佐吉のことを考えて」
「うむ、だからじゃ」
彼が家中で孤立しかけているのを見てそうした、だからだというのだ。
「あ奴も決してじゃ」
「悪い気はしていませんか」
「むしろ有り難いと思っておるじゃろう」
石田はそれもわかる、そういうことだった。
それで古田も言う。
「しかし殿はよく何でもお気付きになられる方じゃ」
「色々と見ておられますな」
「御覧になられるものは広いわ」
そこに加えてなのだ。
「しかも鋭い方じゃ」
「佐吉よりもさらにですな」
「羽柴殿も鋭い方じゃがな」
その彼よりもなのだ。
「実にな。ただ」
「ただとは」
「あまりにも鋭過ぎるやも知れぬな」
「それはいいことでうは」
「いや、過ぎることはよくはない」
古田は茶の道を進む者だ、その中で中庸を尊んでいる、それで過ぎることはどうかというのである。そういうことだった。
「殿は何かよからぬことにな」
「お気付きになられると」
「わしは思うのじゃ。この世には影がある」
古田は真剣な面持ちで小西に語りだした。
「影に気付かれればじゃ」
「何かありますか?」
「影も見ておる」
この場合は影に気付いた信長をだというのだ。
「そしてその影が殿に何をしてくるか」
「それが気になりますか」
「こちらが気付かねばそれで済むこともある」
「ですが天下布武には」
「関わりがなければというのじゃな」
「そう思いますが」
これが小西の考えることだった。彼にしてみれば天下布武に関係なければそれでよいのではというのだ。
「藪から蛇を出すこともありませぬし」
「それはそうじゃがな」
「殿がそうした無闇なことをされる筈もありませんし。それに」
「それに。何じゃ」
「影に何かいるとは思えませぬ」
こうした考えも言うのだった。
「それは」
「怪しい者はおらぬか」
「まつろわぬ
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