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八条学園怪異譚
第二十三話 犬と猫その十二

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「死んでからは驚かせるなんてね」
「随分楽しそうね」
「いや、楽しいよ」
 実際にそうだというのだ。
「生き物冥利に尽きるよ」
「本当に冥利ね」
 既に死んでいるだけにだというのだ、言葉が妙なまでにマッチしていた。
 聖花はそうした話の中でふと送り犬に尋ねた。
「それでだけれど」
「ああ、ここに皆が集まる理由だね」
「それはどうしてなの?」
「ここの裏に丁度あるんだよ」
「何がなの?」
「慰霊碑がね」
 それがあるというのだ。
「というかお墓がね」
「戦争中の?」
 聖花は送り犬と話をしながら上野動物園の象達のことを思い出した。戦争中に空襲を受けて檻から出ては危険だと言われて薬殺されていった彼等のことをだ。実際は食糧問題で止むを得なくだったらしいが。
「その時の?」
「ああ、この動物園ではね」
「違うの」
「ここの動物園は私立だし」
 八条家の経営である。
「学園の中の施設で研究目的って理由もつけてね」
「それで助かったのね、皆」
「うん、何とか皆死なずに済んだよ」
 戦争の悲劇は回避されたというのだ。
「何とかね」
「そうなのね」
「この動物園や水族館はね」
「それは何よりね」
「うん、皆戦争とは関係なく死んでるから」
「病気とか年齢で」
「そうなんだ、皆ね」
 少なくとも戦争中に薬殺はされていないというのだ。
「だからほら」
「ほらって?」
「あそこにパンダいるじゃない」
 この動物園にはパンダやコアラもいる、見ればパンダやコアラも幽霊達の中に混ざっていた。
「ちゃんとね」
「どっちのパンダもいるわね」
 あの白と黒のものではなくアアイグマに似た小さなパンダもいる。
「見れば」
「ジャイアントパンダもレッサーパンダもね」
「どっちも戦後に来たから」
 日中国交樹立からである。
「だからなのね」
「戦争中にパンダは日本にいなかったじゃない」
「ええ」
 まさにその通りだった。
「これが証拠ね」
「そうだよ。後はね」
「後は?」
「コアラだってそうだし」
 この動物も戦後に来ている。
「まあ他の動物達もね」
「それぞれの時代に生きてなのね」
「寿命を全うしたんだよ」
「そうなのね」
「戦争で止むを得ず、ってことはね」
 猫又はそのことについては遠い目で語った。
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