投刃と少女
とあるβテスター、殴られる
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喋るのも困難なくらい咽てしまう。
何とか回復薬を嚥下すると、通常の回復ポーションの倍近い速度でHPゲージが戻っていくのがわかった。
これはボス戦に向かう前、僕が彼女に『いざという時のために』と言い渡しておいた、現段階では最高級の価格と性能を誇るポーションだ。
───あ、そうか。僕、死ぬところだったんだ。
あと一瞬、反応が遅れていれば。
現実世界の僕の身体はナーヴギアに脳を焼かれ、SAOからも現実世界からも永久退場していたことだろう。
渡した本人が“いざという状況”になってたら世話はない……なんて、呆けた頭で考えていると。
不意に、僕の顔を殴る手が止まった。
「……、ユノくんの、ばか」
思わず閉じてしまっていた目を、そっと開ければ。
彼女はその大きな両目に目一杯の涙を溜め、まさにMN5(マジで泣き出す5秒前)といった様相で───だめだ、完全に頭が馬鹿になってるぞ、僕。
……と、そんなしょうもないことばかりが頭に浮かんでいた僕は、
「最後まで気を抜くなって、自分でいつもいってるくせに。死なないでって、いってるくせに!」
「……!」
涙声で叫んだ彼女の声を聞いた瞬間、まるで冷や水をかけられたように、思考がフリーズした。
最後まで気を抜くな。絶対に死なないで。
戦闘で浮かれがちなシェイリに、僕が毎日……それこそ決まり文句のように、言い聞かせてきた言葉。
───そうだ、自分でこの子にそう言ってきたじゃないか。
いまいち現実感が持てないとか、そんな呆けたことを言ってる場合じゃない。
なぜなら。僕はあの“はじまりの日”から、僕のことを信じてついてきてくれたこの子を、絶対に守ると決めたから。
彼女を守るためなら、僕は何があろうと─── ───?
───何があろうと……?……違う、僕は……
自分の主張と実際の行動に、決定的な矛盾を感じて。
それまで当たり前のように思っていた自分の考えが、どうしようもなく矛盾していたことに気が付いてしまって。
僕は、思わず押し黙る。
───違う、僕は。僕は、彼女を、置き去りに……
自分が《投刃》と呼ばれていた元オレンジだということは、いずれ周囲に露呈してしまうだろう。
そうなる前に彼女を育て上げ、最低でも独り立ちできるようになるまでは、一緒に行動するつもりだった。
それが、彼女が僕に寄せてくれる信頼への、僕なりの応え方だと思っていたから。
だけど。もし実際に、その時がきたら。
このまま何も起こらずにボス戦を終えて。やがて僕が《投刃のユノ》だと知られて、彼女を巻き込みかねない状況になったら。
その時、僕はどうするつもりでいた───?
───僕は、僕はシェイリを置き去りにして、一人で消えようと思ってた……
彼女を巻き込み
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