第二十五話 少年期G
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「ここまでぐちゃぐちゃになっていると、いっそ清々しく感じるよなぁ…」
目の前に映る記号や数式の羅列。それを眺めていた死神は笑いさえ起きそうだった。もっともその笑いは、現実逃避に近いものであったが。何度吐いたかわからない溜息すら、もはや出す気にもならなかった。
彼が遠い目をしながら見ているものは『情報』だった。空中に浮かぶ半透明の記号やらが彼の前で舞い、次々に流れている。その規則正しく並ぶ文字には、あらゆる命あるものの記録が載っていた。それこそ過去も現在も運命も因果も縁もなんでもだ。新しい命ができれば、必ず新たに書き込まれていく。
そのためここに置かれている情報量はすさまじいの一言であった。彼もできればこんな頭の痛い作業よりも、脳筋と言われようと武闘派の仕事がしたいと泣きそうになる。しかし原因の一端は間違いなく己なので、検索の手を止める気はなかった。以前調べた結果が果たして本当のことなのか、と彼は数えきれないほどの情報の中から必要なものだけをまとめていた。
「……やっぱり俺が原因だよな。俺があいつの奥底をちゃんと見ていれば、少なくともこんなことだけにはならなかっただろうし」
死なせてしまった青年は、最初それを告げた時は茫然とわけがわからないという表情だった。当然だ。彼には死んだときの記憶はなく、気づいたらもう元の世界にはいられなくなっていたなど信じられない話だろう。
死神の鎌には、切り付けた相手の魂をその世界から切り離す役割がある。そして1度世界と切り離してしまった魂を、再びその世界と繋げることはできない。それは彼を元の世界に戻すことができないことと同意だった。
彼は最終的には自分で転生することを選んだが、それまではひどかった。死んで消えてしまうよりは、生きたいと諦めながらも笑った青年。彼は今まで持っていたものを一瞬ですべて無くしてしまった。1人になり、誰にも手を伸ばせない状況に涙を流した。
死神が青年に力を与えたのは、償いもあった。しかし何よりも、青年が力の使い方を間違えないと判断したからだ。すべてを1度無くし、たった1人だけになった彼は、誰よりも死を……孤独を知った。力を振り回せば人は離れる。それが理解できないほど子どもではない。孤独を恐れる彼が、欲望のままに生きられるとは思えなかったのだ。
そして、その見解は正しくはあった。だがそれは彼の精神のことであり、死によって変質してしまったあり方…魂の望みとは違っていた。精神は覚えていない死の経験を、魂は覚えていたからだ。世界から唐突に切り離された魂の悲鳴はトラウマという形になり、青年の中に存在することとなった。さらに記憶があるかないかが、彼の精神と魂にズレを生んでしまった。
そのトラウマが表に出てきたのは、ヒュードラの事故
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