9 「エリザの思惑」
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、水深1m弱といったところだろうか。ケルビはリーゼをみつけるやいなやぴょんぴょんと跳ねるように逃げていった。
「そういえば、ここ、肉食獣がいない…」
これだけ歩き回れば、今見たケルビの他にもブルファンゴやジャギィなどの小型ながら立派な肉食モンスターがいてもおかしくない。が、今思えばあの滝の上にきてからここまで、リーゼが目にしたのはケルビと、食事をしていたガーグァの群れ、渓流にいると思っていなかったアプトノスとリノプロスだけだ。
「草食動物の楽園、ね」
途中何回か休憩を挟みながら川沿いに歩くこと暫く。ばしゃりと水を何かにかけているような音が聞こえた。
(あの人だ!)
思わず小走りになる。数時間とはいえ、渓流の見たこともない場所にずっと1人でいたのは、正直なところ少し怖かったりしたのだ。いつもハーヴェストと一緒にいたから、会話のない渓流散策というのも久しぶりだ。
草を掻き分け掻き分け、水音が響くその場所へ行ってリーゼが最初に目にしたのは――見事な体躯。
背中を見るだけでもわかる、鍛え上げられた肉体。それでいて締まっている筋肉は、一瞬彼を細身の青年と見せるが、布一枚隔てた向こう側は実際並みのハンターよりも固く力強い。
リーゼはこの時初めて、男性を「綺麗」と思った。
(……わたし、この人に…)
『お姫様抱っこされちゃって〜』
『大丈夫?』 『怪我は、ないね』
エリザのからかいと、昨日、青年がかけてくれた言葉がフラッシュバックする。今更顔を真っ赤に染めたリーゼは、思わず悲鳴をあげた。主に、過去の自分に対して。黄色い声で。
残念ながら、7年(メラルー談。本人すら何年ここに住んでいるか忘れることもある)も人と離れて育ってきた青年が、黄色い悲鳴と恐怖の悲鳴の聞き分けをすることができるはずもない。
「きゃあっ」
声を上げると同時、青年が振り返った。昨日のことを思い出しているリーゼにとって今彼の半裸(限りなく全裸に近い)は刺激が強すぎる以外の何者でもなく。
「ふっ……!」
「ふ?」
「服をっ。服を着て下さい!!」
「へ? ……ああ」
今気づいたというような声を出すと、青年は顔のマスクを確認するような仕草をしたあと再びリーゼに背を向けて服を着始めた。顔に傷でもあるのだろうか。服はユクモ村の女性の服と少し似ているが、少し違う。見慣れない服だった。
「おまたせ」
ちゃちゃっと1分でそれを着込んだ青年は、ほぼ無表情でこちらに歩いてきた。桶に石鹸らしきものもあるが、近寄るとますますわかる、ペイントボールのにおい。顔を赤くしていたリーゼは、再び青くなった。まったくコロコロと変わる顔色である。
そのまま青年が歩き出してしまったので、慌ててついていった。しまった
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