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くらいくらい電子の森に・・・
第十七章
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た男の話を思い出した。丁度こんなふうに、かつての友を歯牙にかけようとした瞬間にかつての記憶が蘇り、藪に潜んで嗚咽をもらすのだ。…僕が烏崎をとことん追い詰めようとした時、紺野さんが言ったことがようやく分かった。

――怯え切ってただろうが、最初から!そんなことも分からんのか!!

僕らを襲撃した夜も、紺野さんを恐喝した瞬間も、徹頭徹尾、烏崎は怯えていたんだ。目指していたのと真逆のベクトルで動き始めているのを知っていたのに、弱かったからそれを止められなかった。人を殺すのも、僕らを襲うのも、きっと怖くて仕方がなかったんだ。でもそれは、紺野さんも烏崎も気がついているように、弱かったから、臆病だったから、という理由で取り返しがつくものじゃない。だから、烏崎は…

――心が脆い烏崎は、どう逃げる…!?

「…しまった、1人にしちゃだめだ!!」
僕の叫び声に重なるように、ぱしゅ…と水道管が壊れたような音がした。紺野さんは弾かれたようにドアに駆け戻り、携帯を電子ロックに叩きつけた。
「烏崎!!」
紅く染まった部屋と、4つの死体。そして今まさに崩れ落ちる烏崎の巨体が、視界に飛び込んできた。…もう一度、口の中で呟いた。

もう、たくさんだ。

紺野さんが何かを叫びながら部屋に飛び込み、首筋から大量の血を噴き出す烏崎を抱き上げている。ベッドのシーツを片手で剥ぎ取り、首筋にあてがい、僕に向かって何か怒鳴った。…多分、医者を呼べとか言っているのだろう。ゆるゆると携帯を耳にあてがうけど、そのうちナースコールの存在に気がついてベッドに歩み寄る。
齧られ、引き裂かれた死体。壁に延々と書き殴られた血文字。

懸命に上を目指してたどり着いた先が、こんな場所なんて。

光を喪っていく烏崎の瞳が、一瞬だけ僕を捉えた。口元が痙攣するように動いたけれど、何を言ったのかは分からない。

――やがて、烏崎は事切れた。

首の傷口から溢れていた血が止まり、首がかくりと落ちた。僕は紺野さんが低く嗚咽を漏らすのを呆然と見つめるしかなかった。
『あぁ、死んだんだ…』と実感の沸かない感想を、頭の中をぐるぐる巡らせるのが精一杯だ。紺野さんに掛けられる、気の利いた言葉でも思いつけばいいのに、と考えながら。
「…私、おかしいのかな」
いつしか僕の隣に寄り添っていた柚木が、小さく呟いた。
「感情が、ついてこないよ。人がこんなに死んでるのに…」
「…うん」
どうしていいのか分からなくて視線を彷徨わせていると、烏崎が叩き壊したノーパソが目に留まった。つい、僕のノーパソが入った鞄に目を落とす。ビアンキはもういないのに。
――ビアンキは、僕のせいで発狂した。杉野という人は死んでいて、烏崎は、その手で仲間を殺めて自分も喉を裂いて…死んだ。
「これが…この事件の結末…?」
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