第十七章
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、よく分からない。
「昨日から俺の周り、血の臭いしかしないんだよ…はは、俺、魚おろす臭いだってダメだったのにさ。白石がさ…白石が、目を剥いて懇願するんだよ。殺さないでくれ、殺さないでくれ…そのうち、殺してくれ、と言い始めた…痛かっただろうなぁ…杉野も、1人で死んでいくのは不安だっただろうなぁ…」
「だめだ…今は思い出すな!」
何かがドアを滑り落ちるような音が響き渡り、また静かになった。すぐ傍に烏崎の息遣いが聞こえる。ドアによりかかって泣いているようだった。
「…お前が、羨ましかったんだよ」
嗚咽に、とぎれとぎれに言葉が混じり始めた。
「俺と同じ馬鹿だと思ってたのに、周りに好かれて、主任に抜擢されて…」
「上司ウケはイマイチだ」
「はは…そうだよな。…そうだった」
乾いた笑い声が、ドアを震わせた。
「お前が、そんなに上手く立ち回って出世するわけないのにな…」
その後、深いため息がもれた。
「…分からないんだよ。俺と、お前らと、何が違うのか。…なにが違うから、俺は取り残されたのか。…仕事か?見た目か?人間性か?…全っ然、分からないんだよ…。なぁ紺野。誰も正解を教えてくれないんだ。なぁ、俺の、何が悪かったんだ…?」
「…正解なんかあれば、俺が知りたい」
「そうだよな、ははは…ともかくよ、出世していった奴と比べて、自分が劣っていると認めるのが怖かった。俺は…救いようがないくらい、臆病だった」
「烏崎…」
「俺が誰かを羨んだり、邪推したり、妬んだりしてヤケ酒飲んでる間に、まっとうに仕事してたんだよな、お前」
自嘲的な調子で、烏崎は続けた。
「その結果、たどり着いた先がここだ。…杉野の呪いとか言って人のせいにしたけど、俺は自分でここに流れ着いたんだ、きっと…」
「なぁ、もういいんだ。自分を追い詰めるな!」
「もう行ってくれ…今な、俺の腹ん中には白石の血や肉が入っているんだよ。…こんなの、もう人間じゃねぇ。獣だ。…今こうしてお前と話していることすら、恥ずかしいんだ」
「お前はどこにでもいる普通の人間だ。…少し、弱ってただけだ。だから出てこい。一緒に、外に出よう」
「…お願いだから、1人にしてくれ…」
語尾が震えて、嗚咽が混じり始めた。柚木が、紺野さんの袖を引いた。
「もう、やめよう。どっちも辛いだけだよ」
「いや、しかし!」
「その子の言うとおりだ…もう、俺なんか気に掛けないでくれ。お前に気を遣われると、自分が余計に駄目な人間に思えてきて、イヤになる…」
嗚咽を無理やり抑えて、烏崎が細い声を出した。
「警察が来るまで、一人にしてくれ…」
「………」
ドアから手を滑らせて、紺野さんは一歩下がった。必死に歯を食いしばって、何かを振り切るように踵を返した。
昔、国語の教科書で読んだ、孤独と凋落の果てに虎と化してしまっ
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