第十七章
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を点滅させた。
「…済んだわ」
流迦ちゃんが、携帯を浴衣の帯に差して呟いた。柚木にタックルされたままの姿勢で、倒れこんだ紺野さんの表情は見えない。
「八幡は回収したし、もうここに用はない」
そう言い捨て、流迦ちゃんが踵を返した瞬間、ドアに貼りつく烏崎の呻き声が聞こえてきた。
「…うぉぁああぁぁ…紺野、紺野、お前のせいで…お前の…」
「流迦ちゃん…戻ってくれ」
「イヤ」
「いいから戻れってば!」
流迦ちゃんを片手で猫かなにかのように抱え上げると、閉じられたドアの前に置く。紺野さんは一瞬だけ僕を見ると視線をドアに戻し、声を張り上げた。
「烏崎!聞こえるか!?…流迦ちゃん、音源のボリュームあげて。…烏崎、そのままドアの前にいろ!俺は、お前が落ち着くまでここにいるからな!!」
流迦ちゃんが、しぶしぶボリュームをいじった。…やがて、ドアの奥から烏崎のすすり泣きが聞こえてきた。
「…嫌だ、もう嫌だ…出してくれ…出して…」
電子ロックに携帯をかざそうとした紺野さんを、流迦ちゃんが制する。
「…おい」
「開けさせないわ。あれが作り声じゃないって証拠はない」
「くっ…烏崎、聞け。お前を狂わせたのは、お前が持っているノートパソコンだ」
一瞬、烏崎の嗚咽が止まった。その直後、ばたばたと慌しく何かをかき集めるような物音が響いた。
「こっ…これは渡さないぞ!!」
「渡さなくてもいい、電源を切れ!」
「で…電源…いや、起動すらしないんだ!」
流迦ちゃんが、つまらなそうに鼻で笑った。
「ディスプレイに表示されてないだけ。『あの子』が、あんたをたばかるために、非表示のまま起動したのよ。…下らない。本体をへし折りなさい」
「聞こえたか、へし折れ!」
「そ、そんな…!俺達がどれほど苦労して!!」
「まだそんな事言ってるのかっ!いいからへし折れ!!」
しばらくして、遠くのほうで金属が叩きつけられる音が聞こえた。
「――音が、止まったわ」
実に面白くなさそうに、流迦ちゃんが呟いた。その声に烏崎の嗚咽が重なった。…紺野さんは疲れきった目で、烏崎がいるあたりのドアをぼんやり眺めている。…なぜか、この人が年相応に老けて見えた。
「烏崎…開けるぞ」
「……開けるな。お願いだ。…開けないでくれ」
携帯を電子ロックにかざす手が、ぴたりと止まった。
「白石、生きてるだろ」
「…今、死んだ。生きてても、最悪だろ…これじゃ」
「だけど、お前は生きている」
「…後生だ、開けないでくれ。こんな…血まみれの、浅ましい格好…同期のお前に晒せっていうのかよ…」
ぎりり…と、奥歯を噛み締める音が聞こえてきた。嗚咽に混じって聞こえてくる烏崎の声は、思っていたよりもずっと臆病で繊細で…ただの人間だった。僕は一体この男の何に怯えて、何を嫌悪していたんだろう。もう
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