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くらいくらい電子の森に・・・
第十七章
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大柄な男が仁王立ちしている。男は何かを高々と掲げていた。『それ』は太い指で首を締め上げられ、かは、かはっと浅い呼吸を繰り返していた。
「八幡ぁ!!」
紺野さんが部屋に駆け込み、烏崎に体当たりした。烏崎はわずかに身じろぎ、八幡を取り落とした。僕はとっさに八幡を抱え込み、部屋を飛び出した。


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「紺野おぉぉぉ!!!」

窓ガラスを震わせるような怒号が耳朶を打った。
「……烏崎」
息を詰まらせて、紺野さんはようやく一言搾り出した。
「おっ…お前のせいだ…お前が、お前が俺を邪魔したから!!」
「いい加減にしろ!…目を覚ませ、それでお前の周りをよく見ろ!」
口角から泡をこぼして怒り狂う烏崎に向かって、一歩踏み込んだ。
「全部っ、お前のせいだああぁああああぁぁぁ!!!」
背筋をいからせてパイプ椅子を持ち上げ、弾丸のような勢いで投げつけてきた。椅子は紺野さんの脇に逸れ、簡易なカラーボックスに激突、大破させた。オーバースロゥの体勢のまま、よろめいた拍子に看護士の遺体に躓いた。奴は…看護士の顔を、何度も何度も踏みつけた。僕らの存在を忘れたように。がし、げし、という乾いた殴打音は、ぐしゃり、くちゃりという泥道を踏むような音に変わっていった。
かつての同期かもしれない。本当は、悪い奴じゃないというのも、真実なのかもしれない。でも紺野さん。あんたの同期は、殺した人間の血に浸って、その肉片を口から滴らせて、血走った目で僕らを睨んでいるんだ。…ねぇ、もういいだろう。気がついてくれ。これを言う僕を『ひとでなし』と言うなら、それでもいいよ。
「これはもう、人間じゃない。もう何を言っても伝わらないよ。だから…もう、逃げよう」

――そう言っても、この人は逃げないんだろう。

案の定、僕の言葉は無視された。紺野さんは、顎で出口を指し示して、無言で僕に指示した。お前は、3人を連れて逃げろ、と。そして性懲りもなく、烏崎に歩み寄ろうとした。
――ねぇ、紺野さん。
あんたは僕のことを『ひとでなし』というかも知れないし、僕のことを許さないかもしれない。でもこれ以上、だれも死なずに済むならそれでいい。ゆっくりと、流迦ちゃんの背後に忍び寄った。

「3秒以内に、そいつから離れろ!!」

流迦ちゃんの頬にカッターナイフを突きつけて怒鳴った。紺野さんは弾かれたように振り向き、信じられないものを見るような目で僕を睨みつけた。
「お前っ、何やってんだ!」
「3、2、」
1、まで数え終わる前に、飛び掛ってきた紺野さんにカッターナイフを奪われた。前のめりになった紺野さんに、柚木が後ろからタックルを食らわせて部屋の外に押し出し、僕の腕から離れた流迦ちゃんが電子ロックに携帯をかざす。ドアを蹴りつける音と同時に、電子ロックが施錠のサイン
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