第十七章
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「…そう、なるのかね」
紺野さんが僅かに顔を上げて、呟いた。ナースコールを押して随分経つけど、応答する気配はない。…ここは、さっきの刑事が封鎖していたっけ。それに今から僕らが本館に運んだって、もう助からないだろう。本人も、そんなことを望んでいない。
「…私、伊佐木さんを探して来ます」
八幡がよろめきながら立ち上がった。出口に向かって歩き始めた八幡の前に、流迦ちゃんが回りこむ。
「動かないで。…まだ終わってない」
「……え?」
流迦ちゃんは、ノーパソから顔を上げて、壁の一点を凝視した。ディスプレイに映るのは、無数の顔や目玉が離合集散を繰り返し、次々に色を変えるサイケデリックな映像。
「今、私のライブカメラが幾つかハッキングされた。…院内イントラネットに、何かが入り込んだみたいね」
言い終わった瞬間のことだった。
部屋の上部に取り付けられたスピーカーから、禍々しい音楽が高らかに響き渡った。
空間の隅々まで張り巡らされたネットワーク。
無尽蔵にも感じる、ハード容量。
演算速度はちょっと遅めだけど、この規模じゃ仕方ないかな。
ご主人さま、どこかで見てくれてますか?
あなたの墓標は、こんなに大きいの。
ううん、私の『大好き』って気持ちを閉じ込めるには、これでも足りないくらい。
ここは全ての音が聞こえる。
ここは全ての場所が見える。
ここは全ての人間に音を伝えられる。
私は、その真ん中でタクトを振るの。この声が、ご主人さまに届くように。
<i529|11255>
――ご主人さまが『おやすみ、ビアンキ』って言ってくれる、その時まで。
病室の…多分、全病室のスピーカーが、この禍々しい音楽を奏で始めた。
いや、こんなの音楽じゃない。狂った機械が絶叫するような笑い声と、硬いガラスを骨で引っかくような騒音。それに、肉の塊に何度も刃を突き立てるような湿った効果音。そんな世界中の聞きたくない音に、一遍に脳をかき乱されるような戦慄。制作者の禍々しい意図を反映した音の洪水が部屋を、いや、病棟を満たした。
「なっ…なにこれ!?」
「――やられたわ」
くくく…と、嬉しそうに笑って、モバイル用のモデムを差し替え、何かのソフトを開いた。
「コレは私が作った、カールマイヤーの音源…くく…あはははははははははははは!!」
ダン!と扉を叩き、血まみれの部屋で狂ったように笑う。
「あの子たち…私のパソコンに侵入してたんだわ!あははははは!!」
「あの子たち?」
流迦ちゃんは、さもおかしそうに含み笑いしながら、僕の目を覗き込んだ。
「烏崎が死んだくらいじゃ、ご主人さまを殺された恨みは消えなかったのよ…あの子たちは、この病院の中央制御システムを乗っ取った。…院内放送は全てあの子たちのものだし、
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