暁 〜小説投稿サイト〜
戦国御伽草子
参ノ巻
守るべきもの

[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話




 あたしは遠ざかる由良の背中を、酷く冷静な気持ちで見ていた。



 …あー…あ。



 なーにやってるんだ、あたし。



 由良の泣き腫らした瞳が、ちくちくと心を刺す。



 これで、いい。だって「三浦にフラれた」って事実だけで由良は充分傷ついた。自分が二番目だったとか、三浦があたしも襲おうとしたとか、そんな余計なことは知らなくて良いんだ。友人に裏切られるのと、恋人に裏切られるのでは、意味合いが違う。だから、これで、いい…。


 あたしはのろのろと力ない足どりで由良と反対側の角を曲がって、どきりとした。



 そこには、高彬(たかあきら)が立っていたのである。



 けれど今のあたしには何も声をかける気力すらない。とりあえず今は何も考えずに眠りたかった。



 あたしは黙ってやり過ごそうとした。



 けれど。



「瑠螺蔚さん、あなたは人が良過ぎる」



 そう高彬に言われて、あたしは思わず立ち止まった。



 高彬は静かな声で続けた。



「由良は、三浦などとつきあっていたのか…。男なら、皆、三浦がどんな奴かは知っている。あいつの罪を、瑠螺蔚さんが被ることはないんだ」



「…」



 高彬は、困ったような優しい顔で、あたしの頬に指を伸ばした。あたしは避けも振り払いもしなかった。高彬の指は頬から耳朶を滑り、そっと首の後ろまでまわって、あたしを包み込むように柔らかく抱きしめた。もう限界だった。



 あたしは高彬にしがみつきながら、幼子のように泣いた。涙が滝のように溢れる。



「こんなの、ずるい…っばかっ」



「そうだね。僕はずるい」



 高彬のバカ。あたしを甘やかさないで。



 もうやだ。今日は本当に散々だ。年下の高彬の前で、あたしはこんなにみっともなく泣いている。いつもこんな時あたしは兄上に甘えていた。ひとりで立とうと思ってるのに…。高彬、お願いだからあたしを甘やかさないで。兄上のかわりなんてなくていい。あたしは強くなりたい。涙なんて流したくない。今日だって、あんたに会わなければ、あたしはきっと無様に泣くことなく明日を迎えられたのに。本当に傷ついているのは、あたしなんかじゃなく由良なのに…。



「由良には、由良には本当のことを言わないで…!」



 あたしは掠れた声で言った。



「瑠螺蔚さんのお人好しは今に始まったことじゃないけれど…」



 高彬はそう言ってから、ふと思い立ったように空を振り仰いだ。



「瑠螺蔚さん、綺麗な七
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ